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「四五号室です。」
病院の独特の匂いに思わず顔をしかめる。受け付けの人に彼がいる病室を聞き足を進めた。出来ることならば帰りたいが、お見舞いの品まで持たされてるもんだから帰るに帰れない。渋々といった感じで病室の扉を開けると、そこには先日会った時よりもいくらか血色の悪い顔がそこにあった。
「お前が来るとは思わなかった。」
目を大きく開いたその顔は昔よく見た顔だ。私がぶっ飛んだ行動をする度に彼はびっくりしていたのだ。
「母に見舞いを頼まれただけなの。」
そう言ってお見舞いの品を渡せば彼は苦笑いした。
「お前の母は昔からお人好しだな。」
受け取りながらありがとうと言った彼の顔は酷く寂しくて、何とも言えない冷たさが背筋に走った。母は体調不良で入院したと言っていたけど、私にはただの体調不良には見えない。一人部屋で、そこそこ広いこの場所で静かに窓の外を見る彼には色が無かった。
「死ぬの?」
ふと自分でも気付かぬ内にそんな言葉が出てきていた。彼はこちらをむいて、困ったようにくすくす笑う。
「多分な。」
「怖い?」
「いいや。」
やはり彼はただの体調不良ではなかった。しかし死への恐怖はないという。
「私の飼い猫が死んだって言ったじゃない?」
「ああ。」
再び窓の外を見てこちらに背をむける彼に言葉を投げる。窓から入る日光に照らされる彼はさらに白く輝いていた。
「死ぬ時、私の事を思い出したと思う?」
彼は黒髪をふわりと揺らし、視線を下に落とした。さあな、と返事が返ってくる。下をむいたまつ毛がゆるゆると揺れていた。
「だが俺がお前の飼い猫だったら、お前に飼われて幸せだったと思うだろうな。」
下をむいていたまつ毛がゆっくりと上をむいて黒い瞳とかち合う。気のせいか、鼻の奥がツンとする。
「そう。明日も来ていい?」
「構わない。」
また明日、と声をかければまた明日と返事が返ってきた。次の日、また次の日と病室に行っては彼と他愛のない話をして帰った。夏休みが残り十日ほどで終わる。
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