___


仁王ちゃんはいつだって私を溶かす。それは仁王ちゃんが教室にいても屋上にいてもテニスコートにいても家にいても、だ。仁王ちゃんが私の前にいなくても、私の頭の中にその姿がある限り私は溶けていくのだ。教室で居眠りをする仁王ちゃん、背中を丸めて屋上で空を見る仁王ちゃん、テニスコートでの仁王ちゃんは、特にかっこいい。その姿を思い出すだけで私は、頭のてっぺんから足の爪の先まで、でろでろに溶けてしまう。身体中が熱い。

「ナマエ」

仁王ちゃんの声が聞こえたら私は、走る準備をするのだ。そして仁王ちゃんの手が私の肩に触れる寸前、地を蹴り走りだす。仁王ちゃんはちょっとびっくりして、ナマエは鬼ごっこが好きじゃのうと追い掛けてくる。

「うわあ仁王ちゃん溶ける!溶けるから追い掛けてこないで!」
「俺が追い掛けたらなんで溶けるんじゃ。ナマエは変な体質じゃの」

仁王ちゃんとは結構長い付き合いで、男友達では一番仲が良かった。というか仁王ちゃんが初めての男友達だった。そんな仁王ちゃんを好きだと気付いたのは数ヶ月前で、仁王ちゃんの仕草一つひとつ見る度に身体中熱くなった。

「ナマエ、ストップ」
「仁王ちゃんもストップ」
「ナマエが止まらんと出来ん」

体育の授業以外に運動をしない私がテニス部レギュラーに勝てるはずもなく、ゆっくりと足が止まる。それに伴い仁王ちゃんの足もゆっくりと止まっていった。

「動くなよ」

仁王ちゃんのこの、一気に距離を詰めるのではなくゆっくりと、あえてゆっくりと距離を詰めるのが好きじゃない。仁王ちゃんの獲物を狙った目が、体を絞めあげていく。仁王ちゃんの靴音と、私のぜえはあと酸素を求める音。仁王ちゃんはとても楽しそうに、口角を上げた。目の前まで来た仁王ちゃんに思わずぎゅっと目を瞑る。

「捕まえた、ナリ」

ふわりと広がる仁王ちゃんの香りと腰にまわった腕に、耳元で囁かれた言葉。ぶわわと顔に熱が集まる。目が開けられない。

「に、仁王ちゃん、溶ける」
「溶けてないから安心せい」

腕の力が強くなり、私はいよいよ身体中が熱くなった。本当に溶けるよ、と小さく呟けばくすくすと笑う声が聞こえた。耳元がくすぐったい。

「溶ける前に食べちゃいかんかのお」

がぶり、と耳たぶを噛まれひっ!と変な声が出る。仁王ちゃんはそれはもう愉快そうに笑った。

「お前さんが俺のことを好きなんは結構前から知っとったぜよ」

ふう、と耳に息を吹き掛けられてびくりと身をよじった。が、ぎゅっと腕の力が強くなる。

「俺が好きだと気付いたときのお前さんの慌てようは凄かったのう」

溶けるから、なんて訳分からんこと言って俺を避けはじめた時は驚いたぜよ、とまたくすくす笑う。手が、髪を梳きだした。

「でも嬉しかったナリ」

髪を梳いている手を首と後頭部に回し私の顔をゆっくりと上げさせる。目を開けばこれ本当に仁王ちゃんかよってくらい優しく微笑んだ顔が間近にあった。

「俺もナマエが好きじゃ」

触れ合った唇から、溶けていく。


20120716.
りゅやたんに捧げまする!
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -