___


ぴぴっぴぴっと電子音が遠くから聞こえた。深く沈んでいた意識が浮上し電子音も近くなる。頭まで被っている布団から腕だけを伸ばし彷徨わせると、時計のボタンを運良く押した。辺りはまだ暗く静まる部屋。伸ばした腕だけが冷たい。
自然と下がる重い目蓋を押し上げ時計を見た。六時ぴったり、まだ寝れる。そう思って再び目を閉じる。
昨日は徹夜だったから上司が遅出で構わないと言っていた。あと三十分だけ、そう思いながら私は深い眠りにつくのだ。



ゆっくりと目を開いた。意識はすんなりと戻ってきて、すぐに覚醒する。時計を見れば八時四十七分。

「…ややややばい!」

三十分だけといいつつ二時間以上も寝てしまった。遅出とはいえ出勤は八時。慌てて起き上がり布団から出る。いや出ようとしたがそれは叶わなかった。

「おはようございます」

布団の端に腰をかけている上司に思わず頬が引きつる。不法侵入、とか考える余裕なんてなくてただ頭の中で警報が鳴っている。殺される、と。

「随分と寝ていましたね」

普段目付きの悪い上司が一層不機嫌な顔をしてこちらに近づく。ああもう何故あの時起きなかったのだろうか。余裕を持って起きれるようにとセットした時計は、睡魔を呼び寄せる事にしかならなかったのだ。

「まあ徹夜でしたので仕方がないかもしれませんが」

二時間も遅刻は、ねえ、ともっと近づいてくる彼を止める手立てはなかった。はりついた喉が声を出すことも許してくれない。

「何か言ったらどうです」
「っす、すみませんでした」

なんとか絞りだした声は小さく、上司をもっと不機嫌にさせてしまい正直泣きそうだった。いっそ睡魔が襲ってきたらいいのに。

「…私も徹夜でしたので正直眠いです」
「ぎゃっ」

とん、と肩を押されたかと思えばばふんと背中から布団に倒れる。じんわりと背中に広がる痛みと、ふわりと香る上司の匂い。

「今日はもう休みます」
「鬼灯様っ」
「一緒にサボタージュしましょう」
「いや仕事…」

仕事は、と言い終わる前にばふっと布団を被せられる。先程まで潜っていた布団はまだ仄かに暖かい。が、布団に潜ってきた鬼灯様の体は冷たかった。

「サボタージュしていいんですか」
「一緒にサボタージュは嫌ですか」
「そんな事はないですけど」

段々と暖かくなってきた布団と鬼灯様に身を委ねつつ少し距離をとる。今日は閻魔様が忙しくなりそうだと思いながら目を閉じた。初めてのサボタージュが鬼灯様とだなんて。



「ってんなわけあるか!」

ばんっと起き上がり布団に潜っている鬼灯様を見る。

「寝坊したのはすみませんでした。でも鬼灯様とサボタージュしたらまた徹夜しないといけないじゃないですか」
「私は構いません」
「私は良くないです。鬼灯様も、閻魔様がキレますよ」
「だから構いませんって」

たかが閻魔様でしょう、とドヤ顔する鬼灯様を放って部屋を出る。後から追ってきた鬼灯様に顔が赤いですよと言われてサボタージュしたくなった。

(鬼灯様と布団に入ったことを思い出して恥ずかしいとか言えない)


20120312
仕事をサボるのと布団を書きたかった。
item by 六仮

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -