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「寒い」
布団にもぐりごほごほっと咳が出る。おかしい。湯たんぽも入れてるのに寒気と頭痛が治まらない。正直吐きそうだった。
風邪か、とずきずき痛む頭をどうにかして痛まぬよう寝返りを打ったりするが、どこに頭があろうが痛みは続いたままだ。最近人混みの中に入ったりとか睡眠時間を削ったからだろうか。
「ナマエ〜入るわよ」
「ルッス?」
大丈夫〜?とこちらに歩いてきた。うっと思わず涙が出てくる。なにこの安心感。
「る、ルッスー!」
「あら、なに泣いてるのよ〜!大丈夫?どこが悪いの?」
「頭痛い寒い吐きそう咳が出る」
んまぁ!とルッスが声を上げた。そして考えるような素振りを見せ、一瞬悪い顔をした。ほんとに一瞬。やだルッス怖い。
「インフルエンザかしらね〜?でもまあナマエだから大丈夫ね」
「なにそれどういう意味!?えっルッス行っちゃうの?」
「なぁに人肌が恋しいの?」
心配しなくても誰か寄越すわよと言ってルッスは出ていった。ぱたんと扉が閉まり静寂が訪れる。
「…寒い」
もぞもぞと布団にもぐりなおし、誰か来ないかなとちらちら扉を見た。スクアーロが来たら殴ってやろう。レヴィが来たら寝たふりを決め込んでベルが来たら帰ってもらってルッスが来たら抱きついて…なんて考えているうちに意識を手放していた。
「げほげほっ」
息苦しさに目が覚めた。近くに放っておいた携帯を手にとるとまだ夜中の二時だ。頭がぐらぐらする。寝返りを打ったと同時にがちゃりと扉が開いた。
「ルッス…?」
視界が霞んでよく見えなかったがルッスなのだろう。ベッドのすぐ隣まで来たので思わず手を伸ばした。安心するなぁとルッスの手をとったら思いの外冷たくてそれが心地よかった。
「ルッスの手冷たい…」
「なにしてやがるカス」
あれ、ルッスってこんなに声低かったけ。でもまあ元は男の人だし低いよね。でもルッスは私にカスなんて言わないし珍しいな、なんて考えてたら手が頬に添えられた。冷たくて気持ちいい。と思った瞬間ぐにっと頬をつねられた。
「あだ、あだだだだ!」
「起きろカス。張っ倒すぞ」
「うええルッス酷い…」
「死ね」
目をごしごしと擦りそばにあるランプをつけるとそこにはルッスじゃない人がいた。
「…えっボッボボボボス!」
「うるせぇ」
「えええなんでボスが…!」
私は違う意味で汗と震えが止まらなくてよくよく考えればボスの手掴んだりとかルッスルッス言ったりとかしてサァッと血の気が引いていく感じがした。ていうか騒ぎすぎて頭痛い。すみませんでしたボスと言ってばふんとベッドに沈んだ。まじありえんわ…
「おい」
「はい」
「これ飲め」
がさごそと袋から取り出したのはあれ、あれそれ、あれじゃね?日本の栄養補給できるゼリー状の、あれだよね?
「あのボス…」
「日本の十秒メシだ」
「いやあの、それわざわざ日本から?」
「十秒で食わねぇとカッ消す」
「んな無茶な!」
そう言ってる間にもカウントし始めたので力の入らない手でなんとかあけて物凄い勢いで吸った。病人になんてことさせるんだ!ボスがゼロ、と言いこちらを見た。な、なんとかやりきったぜ…!とぜえはあ肩で息をしていたらボスがぶはっと笑った。なんて失礼な人なんだ!
「あほ面だな」
「うるさいですよ」
「あ?」
「すみませんでした!」
ボスが額に青筋を浮かべたので勢いよくベッドの上で土下座した。するとまたぶはっと笑った。ぶはぶは言い過ぎでしょ。頭がずきずきする。
「差し入れありがとうございました」
「寝ろ」
「はい」
再びもぞもぞと布団にもぐりなおして目を瞑ったがボスが出ていく気配はないし隣にボスの気配があって気になる。早く帰ってほしい。ボスの前で寝たら寿命縮むような気がする。
「あの」
「さっさと寝ろ」
「や、移りますから帰ったほうがいいかと」
「移したらカッ消す」
「……さいですか」
つまり帰る気ないんだな!ルッスのがまだ安心して寝れるわ。ああ愛しのルッス帰ってきて!あと誤解されたくないのだが私はオカマが好きなわけじゃない。ルッスはお姉さん的な存在だ。
ボスの前で寝るとかお嫁に行けない、鼻から十秒メシ出てきそうとかそんなことを考えていたらうとうとしてきた。寒かったのが熱が上がったようで体中が熱い。もぞもぞと動いていたらボスの手が布団に入って私の手を掴んだ。冷たくて気持ちいい。
「熱が上がったか」
「ボスといると熱が上がります」
「はっカスのくせに言うじゃねぇか」
ははっと笑ってぷつんと意識が途切れた。ボス気持ちいい天使か私のマイエンジェルか。なんて考えるほど私の頭は熱でおめでたくなっていた。ボスが天使とか有り得ない死神だろ。