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私はゆっくりと箸を動かし、掬ったそれを口に含む。それはふわりと溶けてなくなった。何回かそれを繰り返し、目の前に座っているその人をちらりと見る。その人もまた、私と同じようにそれを口に含んでいた。
非常に気まずい
何故こんなことになったのか。何故私は今、ただ無言で豆腐を食べているのか。それは約三十分前の事である。
「兵助、今日ポッキーの日」
「知ってる」
あれ意外、と目を見開けば兵助は当たり前の様にバッグからポッキーの箱を取り出した。それにまた驚くと、兵助はくすりと笑う。くそかっこいいな。
「兵助そういうのには興味ないかと思ってた」
「そんな事ない」
そう言ってポッキーの箱を開けて袋を取り出しぽきりっと食べはじめた。私も袋を一つ貰いぽきりぽきりと食べる。黙々と食べながら、このだだっ広い兵助の部屋を見渡す。来るのは初めてではなくともなんだか緊張する。
「ねぇ兵助、ポッキーゲーム知ってる?」
「ああ、ナマエとしようと思っていたんだ」
え、と兵助の部屋から視線を戻すといつ持ってきたのか豆腐がことりと置かれた。一体なにするつもりだこいつ。
「豆腐ポッキーゲーム」
「………」
私はもう兵助を痛い目で見ることしか出来なくて、でもこいつが私の彼氏だと思うと何も言えなかった。取り敢えずその豆腐ポッキーゲームとやらの説明をしていただきたい。
「まず二人でこの一つの豆腐を食べていくんだ」
はい箸、と私に渡してくるもんだから受け取るしかない。
「そして黙々と食べていくと最後の一欠片になる」
「………」
「どちらともなく箸を伸ばして最後の一欠片を掬うとき箸と箸同士が触れてあっ…て赤面するのが豆腐ポッキーゲーム」
「ポッキー関係ねェェエ!」
ガタッと椅子から立ち上がりとうとう兵助を白い目で見た。今のを私がやると思いますかいいえ思わない!第一最後の一欠片になったら譲るわ。というかそんな発想をする兵助を誇りに思う。他の事に使ってほしいものだ。
「ナマエ絶対赤面する」
「しない」
「じゃあやってみよう」
にやりと兵助が笑うもんだから意地でも赤面しないと決めた。やってやる。こんなゲームに赤面してたまるか。私は箸を持ち直し豆腐の角を掬った。そして冒頭に戻るというわけだ。
だんだんと豆腐が崩れていき最後の一欠片となった。兵助曰く譲ったら負けらしい。それでこそポッキーゲームの時恥ずかしくて思わず折っちゃうみたいな。兵助よく分からない。まあ普通に箸を伸ばしても箸同士が触れることはないだろうと最後の一欠片に箸を伸ばした時だった。
カチッ
確かに箸と箸同士が触れる音がした。兵助のあっという声。私は箸と兵助を交互に見たあと何故だか頬に熱が集まるのを感じた。兵助はこちらを見て、にやり。
「顔、赤いけど?」
やられた。この豆腐ポッキーゲームがいかに恥ずかしいゲームかを思い知らされた。目の前でくつくつと笑う兵助を見て、地中海に沈めばいいのにと思った。
(ナマエ、ポッキーゲームしよう)
(もうポッキー嫌いだ!)
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大遅刻なポッキーゲームでした。
20111113.