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彼が体調を崩したのは最近のことだ。原因はまともな食事もしないで徹夜三昧。忙しい時期なのはわかるが、頼られていないことに私は肩を落とした。誰かに吐き出す時間がないほど忙しかったのだろうか。彼のことだから、遠慮をしていたのかもしれない。連絡がきたときには、身体的にも精神的にも弱っていた。一週間とちょっとぶりに見た彼は酷くやつれていて、彼の家の玄関で悲鳴を上げたほどだ。なんだかもう怒る気にもなれなくて、その日は付きっきりで彼を看病した。仕事が休みで本当によかったと思う。終始謝っていた彼だが、その顔が安心しきっていて少し笑ってしまったのは秘密だ。
それから私の提案で、晩御飯は一緒に食べようという約束をした。彼がまた体調を崩すのは目に見えてわかる。この提案に彼も賛成して早速リクエストをしてきた。全然体調いいんじゃない、と聞けばナマエがそばにおったら気分がようなんねんと言われて、私はむずかゆくなった。彼はいつも私をどきどきさせる。

「じゃあ、ちゃんと定時には帰ってきてね。」

この言葉に彼は数回瞬きをして、ふにゃんと表情を緩ませた。昔懐かしいポーカーフェイスはもう見れないらしい。
彼は私の言ったことをしっかり守って、夕飯が出来上がる頃にはちゃんと帰ってきた。今日の晩飯はなんやろ、と彼が台所を覗く姿がかわいくて、我ながらいい提案をしたと思う。毎日綺麗に食べてくれて、作ったほうとしてはとても気分がよかった。

彼と夕飯を食べるのが当たり前になってきた頃。金曜日だったのでちょっと豪華なご飯にしようとデパートに寄ったら、思いの外長居してしまった。もう帰ってるかな、と彼の部屋にお邪魔したがどうやらまだらしい。一人で住むには広すぎるこの部屋も、二人だとちょうどよかった。
買ってきたものを台所に置いて冷蔵庫に入れる。彼が体調を崩したとき、冷蔵庫が空っぽで呆れたことを思い出した。今は色々な材料が入ってて、冷蔵庫ぽくなったというかなんというか。袋を漁っていると玄関から音がして顔を上げる。台所から顔だけ出せば靴を脱いでいる彼がいた。

「おかえり。私も今来たから、すぐご飯作るね。」
「ん、ただいま。いつもありがとうな。」

いつかに見たふにゃんとした笑顔でこちらに向かってくる彼は、家じゃ緩いと思う。安心してるからだと思うと私も表情筋が緩む。

「今日はホールトマト缶が安かったから、トマトと鶏肉のパスタでいい?」
「おん。…なあ。」

なに、と缶を持ったまま彼の方を見れば思ったよりも近くにいてうわっと声が出た。

「なんか、新婚さんみたいやな。」

私は頬に熱が一気に集まるのを感じた。突然なに言い出すのかと思って口を開いたが、彼の言葉のほうがはやかった。

「いつもナマエがおるから毎日頑張れるんや。ナマエがおると安心できるし、体調を崩してもええかなって思ってまう。」

真っ直ぐに目を見る彼の顔が真剣で、でも優しくて呼吸がしづらい。

「ナマエがおらんかったら俺、今頃死んどると思う。こんな俺やけど、なあナマエ。」

目の前で彼が深呼吸して、ふと笑った。

「俺と、結婚してください。」

ごとん、と私の手から缶が逃げ出した。視界が霞んでなにも見えない。馬鹿、て言いたかったのに、声が出なくてそのまま彼に飛びついた。


20141015.
忍足お誕生日おめでとう!!
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