『未来から来た、だァ?』


ますます警戒を深めるジョジョと私から距離をとるシーザー、まあこの反応が妥当だ。しかもこの時期に怪しい奴が現れて警戒しない方が危ない。

古代より復活した男たちと、未来から来たとほざく女、ああこれ失敗したら死ぬなぁ…。

こちらも二人から距離を取り、おもむろに紙包みの中に手を突っ込んだ。


『おい女、下手な真似するのは得策じゃあないぜ。あんた今、自分がどう見られているのか、分からないわけじゃないだろう』


目当てのものを取り出すとぱらぱらとページを捲る、そうこれは本なのだ。ジョジョの奇妙な冒険 戦闘潮流…所謂特典というやつを信じて、この本の中身が二人に見えないと信じて、リクはこの本を取り出したのだ。


『そんな白表紙の本に一体何が書かれてるっていうんだ?あんたを救ってくれる秘密でも書いてあると?』


やっぱり見えてない。急げ急げ、自分に言い聞かせ、震える手でページを捲る。


「救われるのは私じゃない、私なんかじゃないんだ。ここで死んだってかまわないと、さっきはそう一瞬思ったけど、だめだ。せめて死ぬのは3月になってからじゃないと。…今日は2月6日だって、そう言ったよね」


あった、2月6日…地獄昇柱登頂の次の日だ。


『ああ』


『おいシーザー!てめえ何悠長に答えてやがる?こいつが敵だった場合、やられるのは俺たちなんだぜ』


どうする、シーザーが死ぬまで時間が少ない。普通こういうのは原作より前に来てしまうものじゃないのか、一般人Bの私にできることがあるのか。


『あの震えている手が、怯えている瞳が君には見えないのか?JOJO』


『てめえはさっき、こいつがどうやってここにいたのかを見てねえから、それが言えるってことを俺は言っておくぜ。こいつはなあさっき』


「ジョセフ=ジョースターとシーザー=A=ツェペリ、名前に間違えはないよね。うまく話せる自信がないんだけど、納得いかなければ馬鹿な話だと蹴ってくれてかまわないから、だからお願い….私に時間をください、あなた達に足りないのは分かっているんだけど、だからこそ私に、時間をください」


なんて嫌いな展開だ、トリッパーだなんて馬鹿なことを伝えずに信じてもらうってかなり難しいんじゃないのか。

日本固有最終手段、土下座。三つ指を立て、額を地面に打ちつけた。血が出たかもしれないけど、その程度。彼が死ぬことに比べれば軽すぎるだろう。


『…頭を上げてくれないか、シニョリーナ。君の顔に傷が残ってしまう』


「下げたままだけど話を聞いて欲しい。…出来れば貴方だけに聞いて欲しいんだけど、そうはいかないみたいだから」


こつこつと響いてきた足音に舌打ちを溢しそうになった。


『何をしているのです、ジョジョ、シーザー』


『先生!』


頭を下げたまま近くの海の水面を見ると、黒髪の女性が少し遠くから私を見下ろしていた。わずかに肌に痺れが走る、波紋か殺気か、それを見分ける手立てはない。ただ分かるのは、味方か敵か、態度で示せと言われているということ。

静かに顔を上げるとその女性と目があった。


「…三十六計逃げるに如かず、かな」


ここまでずっと、心のどこかで黒い液体について考えていた。そして気付いたのだ、気づいたというか気づかされたというべきか。頭を打ちつけた際に地面と額の間に黒い液体がクッションとなって、幸いなのか額に傷がつかなかった。オートガードのようなものだろうか、それとも誰かの差し金か、こちらに来てから憶測ばかりで動いているのにそろそろ限界を感じざるを得ないが、致し方がない。


『シーザー、その子を捕らえなさい!』


『なッ、リサリサ先生!?』


「また会おうね、ツェペリ」


迷いなく海に飛び込むと黒い液体が体を包み込み、そのまま海へと沈んでいった。


『ーーー!?ーー!』


『ーーー!、ーー!!』


深く体が沈んでいき、陸で騒ぐ声が聞こえ段々と遠くなっていくのが分かる。

不思議と、いや期待はしていたけれど呼吸は当然、思う方向へと体は動き体を纏う黒い液体は補助をするように動き、海底へと足がついた。

初め黒い液体へ体を包まれた際と同じように、空を仰げば時は夜、当たり前の如く視界は黒である。

周りに空間を作るように力を込めると、丸く大きなシャボン玉のように形が変わり、泡の中に入ってるような感じになった。

どうしようか、これから先。

目の前に手を差し出し、手のひらを開けば、ぽちゃんと黒い液体が落ちてきて、指の間をすり抜けていく。

抱えていた本を開き、ぱらぱらと日付を確認すると、エシディシ戦まであと20日程。その翌日が、彼の死ぬ日だ。……シーザー=A=ツェペリ、彼の。


ぽちゃりと、雫が落ちていく。






















セオリーはない、私にできるのか。そう上手くいくだろうか、ここまでの私のように。