「おう、お前らも来たのか」


 Qの鍛冶屋に着くと、まず入り口近くの壁にかけられている剣を眺めていたワルターが声をかけてきた。一緒に来た筈のフリンはと問えば、親指で刺された先、奥まった場所に掛けられた防具の前で店主と何やら話し込んでいる姿がある。


「いい物は見つかったかい?」
「いーや。お頭がくれた軍資金じゃ柄を買い換えるぐらいしかできねぇよ」


 ヨナタンの問い掛けに、ワルターが首を横に振って否定を示した。そりゃそうだ。300マッカじゃ精々回復アイテムを買い足す位しか出来ない。しかもワルターとフリンは地方の村から足を運び、そのままサムライとなったカジュアリティーズだ。元から城下住まいのラグジュアリーズである自分やヨナタン達と違い、ほぼ着のみ着のままで住み込みとなった彼等にはこの店でもっとも安い品だってそうそう手は出し難い値段なのだろう。
 チャレンジクエストや遺物、取得アイテムによる小遣い稼ぎはナラクに入ってから教わることだし、俺も一周目は悪魔にフルボッコ食らいまくって困ったものだ。稼ぐために仲魔作ろうとして、失敗して、三途の川に行ってしまって賄賂のために金を失う悪循環。ひどいデススパイラルだった。意地でも難易度下げなかった俺は馬鹿だろう。レベル上がるまででも難易度下げとけばよかったのに。
 装飾に差はあれどどれもこれも似たような物に見えてしまう武器や防具達を前に、なんだか威圧されている気分になるのはこんなに大量の武器や防具を目にすることがなかったからか。なんだか腰の得物が重みを増した気がしてもぞもぞと位置を直していれば、支給された刀と共に俺の腰に差されている小刀を見たワルターが、おっ、と声を上げた。


「ラグジュアリーズのお坊っちゃまは随分と可愛い得物をお持ちのようで」
「んー?……ああ、これか?」
「お前、見るからにひょろい体つきしてるもんなぁ。こんな刀振り回すだけの力はねぇか」
「ワルター、貴方……」
「ンだよ」
「イザボー、いい。気にしてない」


 からかうような口調ではあるが、ワルターの言葉には悪意まで込もってはいなかったので、諌めようとしたイザボーに制止をかけた。
 実際、ナバールの身体は俺が言うのもなんだが結構ひょろいのだ。パラメーターの数値と外見は比例しないのか、ワルターが筋肉を確かめるように掴んだ腕だって筋肉質とは言い難い柔らかさをしている。それでも一応、昨夜の内に素振りをした感じでは、力がないわけではないらしい。普通の刀も振り回す分には結構軽く感じられたのだが。


「……ときにワルター、お前いつまで俺の腕を揉んでるつもりだ」
「いや、なんつーか妙に癖になる柔らかさで……」


 スポンジにつけた洗剤を泡立てるかのように二の腕をわきわきぐにぐにしてくるワルターの手が煩わしいのに、等の本人は悪びれる様子などまるでない楽しそうな顔で俺の腕を揉みしだいている。
 ヨナタンは「そんなに気持ちいいのか?」とワルターの動きを興味深そうに見つめているし、イザボーに至ってはちょっと羨ましそうな顔をして俺の腕を見ていて、そろそろ擽ったくなってきたから助けてほしいのに、先程のような助け船は期待出来そうになかった。フリンはいまだ店主と話し込み中だ。そんなに長くなに話してんだよお前。誰か助けろ。割と本気で。


「お前な……どうせ揉むならイザボーの腕を揉め。女の子の二の腕はおっぱいとおんなじ柔らかさなんだから、きっと気持ちいいぞ」
「えッ?!」
「なッ…?!ななな、ナバール!君は急になにを……!」
「そうそう、あんな固そうなの揉んだってなんも楽しくねぇだろ」
「……野郎の腕を楽しそうに揉みしだく方が世間一般の目から見て余程異質なんだと気付きたまえよ、君」


 ほら、戻ってきたフリンさんが驚愕の表情で俺達を見ていますよワルターさん。やっぱり野郎が野郎の腕を嬉々として揉んでいるのはおかしいんですよワルターさん。だから離せ。マジで。