夢から覚めたと思ったらそこはまだ夢の続きだった。
 何を言ってるかわからないと思うが、俺自身何を言っているかよくわからない。

 目の前には片膝を両手を広げ聳え立つ石像、その台座の下には規律正しく整列する青い衣装の戦士達と、その先に設えられた台座に座する修道僧。その対岸に位置する、俺が立ち並んでいる男女混合の人垣は、それが故意に出来上がったものなのか自然とそうなってしまったのか、身分の差が如実に表れる形で左右に二分されている。
 自分を取り巻くその全てに、俺ははっきりと見覚えがあった。単なるデジャヴや昔誰かから話を聞いたとか、本で見たといった朧気な知識からの思い込みではない。後者はまだ表現として近いと言えば近い――が、自分が今味わっている現実は、俺の知る現実では、作り物の話、他人の夢を垣間見るような、近くて遠い、虚構の世界だった筈なのだ。


「次の者!……そこの貴様だ!」


 鎧を着込んだ男に恫喝するように促され、一歩、また一歩と足を踏み出す。生まれてこの方着たことは愚か触れたこともない筈の、質のいい肌着の中がじっとりと汗ばむのがわかった。
 逆光のせいでろくに表情のわからない石像の前で立ち止まると、初老の修道僧が一人表れ、ゆっくりとした動作で一礼した。


「それでは……、ガントレットの儀式を始めましょう」


 修道僧に促されるまま、左腕を差し出す。慣れた、けれども丁寧な手付きで装着されたガントレットはずしりと重い。鋭く吸い込んだ呼気に、緊張で狭まった気道が、ひゅ、と情けない音を立てた。
 カシャン、と軽い音を立ててガントレットに装着された機械の画面が開く。映し出されたのはよく見慣れた言語の、タッチパネルのセキュリティシステム。緑のアイコンをちょんと小突けば、読み込みの機械音が鳴り響き、少ししてから『認証完了』の文字が画面に浮かび上がる。


「おお……!」
「ガントレットに魔法の言語が浮かび上がったぞ……!」


 自分を所有者と認めた、とかなんとか、修道僧が歓声を上げるのに構わず、俺はじっとその細長い画面を見つめていた。
 ガントレット、儀式、魔法の言語、青い衣装の――――サムライ。


「……うそやん」


 ひきつった笑いを浮かべながらぽつりと呟いた俺に、案内を申し付けられたサムライ頭がどこか憐れんだ眼差しを向けていた。