「あれ、イザボー?」
「あ、ナバ…――――きゃあッ!!」


 うっかり着替えの服を持たないまま風呂に入ってしまったので、バスタオルで下半身だけ隠した状態で部屋に戻れば既にサムライ装束のイザボーがいて、初々しい反応をしてくれました。顔を真っ赤にして慌てるイザボーは素直に可愛い。そういえば四大天使救出の時にも「父上以外の裸を……」って照れてたなぁ。
 大事なところは隠しているとはいえ、パンツすら履いてない状態の俺から慌てて目線を反らしたイザボーは、そのまま隠れるように部屋の隅へと縮こまる。
 ……異性の裸体に免疫がないせいで混乱しているのはわかるが、そこは部屋を出ようぜイザボー。俺はそんなつもりないけど、年頃の男(しかも裸)を前にして逃げ出さないのは同じく年頃の女性としてはあまりに危機感に欠けた選択じゃないですかね、お嬢さん。男は狼なのよ、気を付けなさい。古いか。


「し、シャワーを浴びていらしたのね勝手に部屋に立ち入ったことは謝罪いたしますわごめんなさいというか貴方なんでそんな格好で出てきますの着替えくらい持ってお行きなさいないくら私室とはいえ此処は城内で私達は借り住まいの身ですのよ国防の象徴たるサムライとして誰も見ていない時こそしっかりと、」
「あーはいはい、お説教は後で聞くからちょっと外に出ててくれるか?湯冷めする前に着替えちまいたい」
「……そ、そうね、ごめんなさい」


 よく息がもつなという長台詞を遮って退室を促せば、イザボーは本当に今気付いたといった様子で慌てて俺の部屋を出ていった。

 時間にして五分かそこらだろうか、ちゃっちゃと身支度を整えた俺が部屋を出た時、イザボーはまだ顔を赤くしたまま壁に寄りかかるようにしてドアの真横に立っていた。


「も、もう身支度は済みましたの?」
「女性の身支度に比べたらそりゃ早かろうよ」
「……髪がまだ湿っていましてよ。乾かす時間くらいは待てましたのに」
「気にする程じゃない。動いてりゃいつか乾くさ」


 来訪の理由を聞くのも兼ねて、二人で朝食を食べに食堂に向かって歩き出す。ある意味ナバールの象徴ともいえるリーゼントは整えるのが面倒な上にそれなりに時間がかかるので、急いで乾かした髪は後頭部でくくっただけなのだが、それがイザボーの目には新鮮に映るらしい。「髪型が違うだけで随分と印象が違いますのね」。ぽつりと呟かれたそれは少なくとも悪印象のそれではなかったので気にしないことにした。
 覆うものがない襟足がなんだかすーすーして心許ない。髪がまだ僅かに湿っているからだろうか。“元の俺”はワルターより短いくらいの短髪だったのに、体に染み付いた感覚というものは全くもって不思議なものだ。


「で?朝っぱらから俺の部屋を訪ねて来た理由はなんだったん?」
「お頭からの伝言よ。私達新人は、今日は広場にある『Kの酒場』を訪ねるようにと」
「ああ、なるほどな」


 フリンの方にワルターとヨナタンが伝言に行っていたんだから、俺の方にイザボーが来るのは当然か。「それくらいならバロウズに伝言を頼んでもよかったのに」。どちらかといえばホープ殿に言うべきだろう台詞を言えば、イザボーは「バロウズちゃんが信用出来ない訳ではないのだけれど」とガントレットを撫でながら前置きして、「言付けを承ったのは私ですもの、やはり直接口で伝えるべきだと思いましたの」と続けた。俺の部屋で待っていたのも、ガントレットが部屋に置き去りのままだったのを見て一度は部屋に帰って来るだろうと判断したかららしい。


「いいな、そういうきちんとした考え方が出来る奴は好きだ」


 伝言ちゃんと受け取った。そう言って感謝を込めて頭を撫でれば、「……誉め言葉と受け取っておくわ」と少しばかりひねくれた返答が返った。照れてるんですね、わかります。