「ぐっもーにんバロウズ」
『GOOD MORNING、マスター。あれだけ寝たのに、まだお疲れみたいね』


 ほぼ丸一日寝ていたせいか、一周回って疲れがとれていない体を起こして、ガントレットに挨拶をする。俺の声に反応して挨拶を返してくれたバロウズに「寝過ぎでだるい」と答えると『シャワーを浴びてさっぱりすることをお勧めするわ』と進言された。
 そういえば結局昨夜はお風呂に入ってないなぁ、と思い出すと途端に体が痒くなってきたのでそのまま部屋に備え付けの風呂場に移動する。こういった生活面での技術は解析、開発が優先されるのか、儀式の夜に部屋に完璧なシャワールームがあるのを知った時には感動を覚えた。……とはいっても、こういう設備はおそらくラグジュアリーズ限定のものなんだろうとは思う。流石にシャンプーやボディーソープなんてものは無く、体も頭も、洗う時は泡立ちにくい石鹸と糠袋が基本なんだが。
 こういうものを見ると、自分がいかに恵まれた環境にいたかということがよくわかるよなぁ。洗濯板で服からシーツから全部洗濯するんだから凄いことだ。

 温く勢いのないシャワーを浴びながら、妙に油臭い石鹸で体と頭をいっぺんに洗う。垢擦りタオルが有るのがまだ救いだろうか。湯気で遮られることのない視界で乱雑に体を擦りながら、漸く覚醒してきた頭で昨夜のことを反芻した。

 ――十中八九、先輩方との対決は避けられないに違いない。

 俺がよかれと思ってとった行動が、おそらくは起爆剤になってしまった。
 今日か、明日か、もっと先か――いつかは訪れてしまうだろうその時を思うと、ぞくりと背筋に震えが走るのがわかる。


「どう足掻いても、お前はそういう星の下に生まれちまってんだな、ナバール……」


 それが『俺のため』という大義名分を掲げた義憤からの行動になるのか、先輩方いわく『身の程知らずな』後輩へのただの洗礼になるのかはまだわからないが、間接的であれ直接的にであれ、俺が関わることになるのはまず間違いないだろう。
 フリンに協力した時点である程度の飛び火は覚悟していたとはいえ、成り行きは違っていても結果的に俺が焚き付ける形になってしまったのが非常に申し訳なくなる。
 噂を否定して回ろうにも、誰がどちら側の人間かもわからないし、何より当事者である俺が何かを言ったところでそれが火に油を注ぐ結果になってしまったら意味がないしなぁ。救いなのは、ワルターの口振りからしてフリンに対して好意的な人間がサムライの大多数であるというところだろうか。皆さん大人ですね。一部大人げないにも程があるけど。
 シャワーのコックを最大限に捻って、肌を叩くぬるま湯の雨に身を委ねる。栗色の髪の毛を手櫛で梳かしながら、肌を伝って白濁とした水が流れていくのを見送る。


「……最悪、アルラウネは俺が倒すことになるとして……」


 そこまでの道程を想定しておこうと思考を巡らせ始めたところで、はたと気が付いた。そもそもこの場合、Kの酒場でナバールの挑戦から始まるチャレンジクエスト消化合戦は起こるのか?
 仮にワルターあたりがそういうことを提案したとして、先輩方の水面下での計画進行はどの程度の時間がかかる?その計画がナラク内で始動するという確証は?もしもその計画がワルターとフリンを一度に罠にハメるのではなく、個別に各個闇討ちするような計画に変わっていたとしたら?


「……あれ、ひょっとして、ひょっとしなくても、前より死亡フラグ濃厚になっちゃってたりする?」


 ジーザース。