「……なんだろう、今俺すっげぇ生きてるって感じがする……」


 ナラクから地上へ帰還して一番、日の光を浴びながらそう言った俺に、一足遅れて外に出てきたフリンが激しく頷きながら同意した。
 時間にして約三時間。たったそれだけの短い時間に味わった内容があまりに濃すぎて、まるで刑期明けの囚人のような、そんな尋常じゃない解放感と達成感が身を包んだ。
 俺達よりも先に地上に戻っていたらしい、イザボー達の元へとフリンに支えられつつもふらつきながら近付くと、ホープ殿が「少しはサマになったか」と笑う。ホープ殿、あなた正直目が腐ってるのと違いますか。


「……まずはご苦労。皆、無事に生還できたようだな」
「いえすお頭。絶賛死にかけですが生きてます」


 襲い来る疲労感とそれに付属する睡魔に、俺が半ば自棄になりながら口にした台詞に、ヨナタンとイザボーが苦笑した。おいおい、と呆れた様子で近付いてきたワルターがフリンとは逆側から体を支えてくれて、図らずもなんかこう……捕獲された宇宙人のような図になった。支えてもらっている手前文句は言えないが、うん、もう少し身長欲しいな。


「おいおいナバール……、お前どんだけ体力無いんだよ。あれしきの訓練でそんなへばんなって」
「るっせぇわるたー、おれはなぁ、きょういまだかつてないくらいにがんばったんだよ。ほめろ、ほめたたえろ」
「呂律おかしくなってるし……」


 ワルターの言う通り、訓練でこんなにへばっていたら毎日ナラクに降りていくサムライ達はどんだけ凄いんだって話なんだが、俺、今日は本当に頑張ったんだよ。たった三時間だけど、マジで頑張った。フリンに比べたら全然動いてないけど、ともかく俺的にはすごい頑張ったんだ。
 だから早く部屋戻らせてください。このまま寝落ちるのは嫌ですお頭。
 俺の様子を見て急いだ方がいいと判断したのか、ホープ殿が「それでは、最終課題のトップを発表する」と切り出した。フリンとワルターの背筋が伸びるのに合わせて、肩を借りている俺の背も強制的に伸ばされる。


「最終課題のトップは――フリンだ」


 お頭の宣言に、隣から感激の声が上がった。「おお、マジかよ!」「おめでとう、フリン」「中々の腕前ですのね……お見それしましたわ」それぞれが賞賛の言葉をフリンに述べる中、俺だけが何もしないのも変な気がして、フリンの頭を抱えるように手を伸ばしてわしゃわしゃと撫で回した。ぶっちゃけ眠気がひどくて今何も言えん。それでも意味は伝わったらしい。同じようにわしゃわしゃと頭を撫でられて、整えてあった髪型が崩れたのがわかった。

 ――指輪を、フリンに取るように言ったのは俺だった。
 作戦の立案は俺とはいえ、実働はフリンとその仲魔で、かつ戦闘自体も思い通りに運べたとは言えない気がしたからだ。犬に飛び掛かられたフリンのナパイアとモコイは結構な傷を負ってしまったし、ラームジェルグとフリンもマハザンストーンの余波を受けて軽いながらも傷を負ってしまった。せめてもの償いに傷の治療だけはさせてもらったが、正直、もっと上手くやれたんじゃないかと思ったのは事実だ。
 それでもフリンがなかなか納得してくれなくて、指輪の箱の前でダチョウさんみたいなやり取りが起こったのには笑った。戦闘よりフリンの説得に時間がかかったことに対しても。

 ――――この直後、二人に支えられながら見事に寝落ちてしまった俺は知らない。フリンが指輪の返却と共に俺への評価も嘆願したこと、その流れで俺とフリンの協力戦闘のことがその場の全員に知れ渡り、それどころかその話がサムライ中の噂になってしまうこと。……それから、寝落ちた俺がフリンに姫抱きにされて部屋まで運ばれたことも、この時の俺は全く知る由もないのである。