「……あ」
「おー、フリン。どうよ、お頭の言ってたアイテム見付かったか?」


 今すぐギブアップをしたい疲労感に身体を苛まれながらも、クエストのためによろよろと部屋を出たところで、同じくクエスト遂行のために動き回っていたのだろう、フリンと出会った。クエストの進行度合いはどうかと尋ねれば、フリンは無言のまま首を横に振る。……Kの酒場でも言ってる奴がいた気がするが、本当に無口なんだな、こいつ。
 ボイスがついているとはいえ主人公故にゲーム内ではとんと声を出して喋る機会の無いフリンは、現実でもあまりお喋りな気質ではないようだ。初対面での自己紹介でもポツリと名前を口にしただけだったし、バロウズとの初対面でもバロウズの『よろしく』にこくりと頷いただけだった。
 ……ひょっとして、こいつが喋るのって人間より悪魔の方が多いんじゃないか?


「……ナバール?」
「……あ、いや、なんでもない。気にすんな」


 何故だろうか、今、愛と勇気だけが友達な彼奴が脳内を飛び回った。違う。少なくともフリンにはワルターもヨナタンもイザボーも、イサカルだっている。悪魔だけが友達とか、そんな悲しい……いや、考えてみたらまともに人間のままなのって、イザボーだけじゃ……。
 考える程に目頭が熱くなる思考を頭を振って散らしていると、フリンが何事かと首を傾げながら俺を見た。可愛くはない。


「なぁ、どうせなら二人で探すか?」
「……お頭は競争だと言っていたぞ」
「協力するなとは言われてないし、一位は一人きりだとも言われてないと思うが」


 頓知のような俺の意見に、フリンはやや怪訝な顔をして黙り込んだ。薄い緑色の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。先輩方とはまた違った威圧感のこもった眼差しに、なんともいたたまれない気分になる。
 俺の申し出に裏は無い。順位に執着は無いし、元よりアイテムの隠し場所も知っているのだから、一位をとるつもりなら端からフリンに何も言わずに向かうことだって出来た。それらを一々口にするつもりは無いが、見つめられていたたまれなくなるのは隠し事をしているという事実があるからだろう。嘘はついていないが、黙っていることはある。だがしかし、知っている理由を問われると困るのもまた事実だ。


「俺さ、どうせならお前に一位とってほしいんだよ」
「なんでだ」
「なんとなく」
「………………」
「信じらんねぇなら別にいいけど」


 どれだけかかるか知らないが、現実的に見てナラクの広さはそれ程ではない。マップやサーチといったバロウズのサポートがあれば、奥まった所とはいえ段差の奥という気付けば簡単な場所、一人でも楽に見付けられるだろう。
 俺を見つめたまま微動だにしないフリンに返事は『NO』なんだなと見切りをつけて、じゃあクエストが終わってから会おう、とその場を立ち去ろうと背を向けた――――瞬間。


「……ぐぉッ?!」


 襟首を掴まれ引き寄せられるという些か乱暴というか強引な手段によって、踏み出そうとした足が止められた。転ばなかったのが不思議な勢いだ。バランスを取ろうと無理な体勢になったせいで腰が嫌な音を立てたけど。後でナパイアに回復してもらおう。
 襟首を押さえられ、かつ上手く動かないと転びそうな不安定な体勢から、なんとかフリンの顔を伺う。相変わらずの無表情のフリンは、やはりその透き通る緑の眼で俺をじっと見つめていた。


「………………」
「…………えーっと、フリンさん?」
「……手伝ってくれるんだろう」
「え?あ、はい」


 返答を聞くや否や、俺の襟首を掴んだまま歩き出そうとするフリンに、慌てて体勢を戻して着いていく。なんぞやこれ。フリンの反応が読めなさすぎて泣きたい。