ナラク探索なう。
 バロウズに「ナラクって結構入り組んでんのな、俺方向音痴だから迷子になったら嫌だなー(チラチラ)」とそれとなく相談したところ、一足早くマッピングシステムをゲット出来たので、他の奴が仲魔集めクエストをクリアするまで、仲魔にしていない悪魔ストックと地下二階部分の探索をすることにしたのだ。マップを完璧に埋めたくなるのはゲーマーの性だろう。まだ地下三階には行けないのが残念だが。
 扉を塞ぐ壁……触手?みたいな障害物を破壊したり、チャレンジクエストで必要になる苔を回収したり、道中仲魔にしたフケイさんが友人と談話するのに混ざってみたり。マップ埋め中にワルターがナパイアにビンタを食らっていたり、フリンがチャクラドロップ喉に詰まらせたスライムの背中を擦っていたりするのを見かけた時はなんだか微笑ましい気持ちになった。喜べワルター、それは業界ではご褒美だ。


「……よし、とりあえず今行けるところはマッピング完了かな」


 ガントレットに表示される地図をタッチパネルで確認して、四階へのショートカットがある部屋と三階への階段以外の地図が表示されていることを確認して息をつく。ただ歩き回るだけならまだ疲れないのだろうが、ナラク内には段差をよじ登ったり飛び降りたり、壁に開いた穴を潜って進んだり、というアクションが必要な部分もあるので、それが地味に効く。しかもそれを籠手や具足、さらには刀をぶら下げてやるんだから余計に。
 休み休み移動していたとはいえ、ナバールは普段あまり運動をするタイプでは無かったのか、今、物凄く足が痛い。途中でグリフォンに背中に乗せてもらえないか聞いてみたのだが、「コレシキデナサケナイゾ、ニンゲン」と罵倒されて終わった。畜生。あわよくば羽毛もふもふさせて欲しかったのに。
 休憩がてら廃棄場に移動して、お供として召喚しているフケイさんとグリフォンに魔石を与えていると、そこでお頭からの通信が入った。実地訓練開始から二時間、漸く皆が規定数仲魔を獲得したらしい。
 最終課題は『探索のイロハ』を学ぶこと。新人全員でお頭指定の品を探し、その順位を競う。順位と言っても隠された品は一つなんだから結局一位とそれ以外でしかないのだが。
 正直、順位とかはどうでもいいのだが、バロウズ――もとい、ガントレットを介して情報は常にお頭に流れているため、形だけでも参加の意思は示していないといけないだろう。フケイさんとグリフォンに一声かけてから、よっこらせ、と我ながら年寄り染みた掛け声と共に立ち上がってだるさの残る足をぶらつかせる。不穏な音を鳴らしながら体をほぐし溜め息をつく俺を見て、フケイさんがほっほ、と穏やかに笑った。


「お前さん、まだまだ若い内からそうでは、年を取ってから苦労するぞ?」
「あー…はい、耳が痛いです」
「狩リ、常ニ死ト隣リ合ワセ。弱イ奴スグ死ヌ!ニンゲン、モットカラダ鍛エテツヨクナレ!」
「いや、俺すでにレベルカンストしてるから――…?」


 ガシャン、と扉の開く音がした。
 扉を開けるという概念がないのかなんなのか、ナラクの悪魔達は基本的に部屋の中に入ってこない。だから、扉を開けるという行為自体が人間の来訪を告げる証と言えて、扉から姿を見せたサムライ衣装と鎧の男性二人に、此処に休憩に来たか、或いは廃棄物処理に来たのだろうと簡単に予想がついた。
 先輩とおぼしき二人組に挨拶がわりの会釈をしつつ、その二人と入れ替わりに部屋を出ようとした時だった。男達がまるで俺の進行方向を塞ぐかのように扉の前に並んだのは。


「――お前、ラグジュアリーズ出身のナバールだな?」


 あ、なんか嫌な予感。
 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら扉を塞ぐ二人組に、部屋の空気がどろりと身体に絡み付いてくる心地がした。