「――たかだか18年しか生きとらん身で、死ぬ覚悟なんか出来とる筈ねぇだろうがボケェェエエエ!」


 ――以上が記念すべき初遭遇悪魔、ラームジェルグさんに対して俺が放った渾身の叫びである。ちなみにスキルの『雄叫び』を使った訳ではない。純粋な今の心境から生まれた極めて切実な叫びだった。いや、本当に。
 俺の心からの叫びに唖然とするラームジェルグさんと御付きのスライムさんを不意討ちフルボッコした俺はサムライとしては『残念』の一言に尽きるだろう。おいワルター、お前隠れてないからな、其処隠れられてないからな。
 俺の言動に肩を震わせているワルターに幾ばくかの殺意を募らせながら、ナラク内に点在する小部屋へと移動して一息つく。バロウズからのアプリポイント獲得のインフォメーションとアプリ解説を丁重に辞して、会話の終了と同時に入ったお頭からの通信に耳を傾ける。画面の向こうのお頭が、俺が小部屋に駆け込んだ時の先輩方のような何か哀れんだ表情を浮かべていたのは見なかったことにしよう。


『……いきなりの落第は免れたようだな、ナバール。クエスト達成だ』
「寧ろ失格イコール即死でさえなければ是非落第したかったです」
『では次のクエストを申し渡す』
「お頭スルーいくない」


 相手をするのも面倒だと感じたのか、ホープ殿は淡々と次のクエストについて説明すると、あっという間に通信を切った。俺の言動については完全スルーなんですかそうですか。慰めるように肩を叩いて下さった壮年のサムライにお礼を述べて、画面に表示されたクエスト内容に改めて目を通す。
 続いてのクエストは女神転生シリーズの醍醐味の一つ、会話による仲魔の獲得。クエストクリアの条件は三体。基本となる『スカウト』のついでに、スカウト系列のアプリ取得と仲魔枠の拡張を済ませておく。アイテムについてもマッカについても心配はないが、この先悪魔会話を幾度もこなしていかねばならない生活のうえで、スカウト最適化のアプリは必須だろう。全て悪魔辞典から呼び出してしまうより、会話して仲魔にした方が愛着も湧くというものだ。
 ……上手く仲魔に出来れば、の話だが。
 アプリポイントが周回プレイ仕様なことには予想がついていたが、何故だか笑いが漏れた。


「……なぁ、バロウズ」
『どうかした?マスター』
「新しいアプリの取得って条件みたいなものあったりする?」
『そうね……一部のアプリについては特定の条件やクエスト達成によってロックが解除されるものもあるけれど』
「悪魔合体のアプリとか?」
『博識ね、マスター』


 ズルをするつもりは無かったが、アプリ一覧を見ていた時にふと浮かんだ疑問をバロウズに確認すれば、にこやかな肯定でもって返された。つまり、邪教の館アプリ獲得は少なくとも実地訓練終了――もしくは明日にならないと解放されないのかもしれない。

 ――――明日。
 つまりは、ナバールによるラグジュアリーズフルボッコ計画の前哨戦……いや、根回しのための時間稼ぎか?ともかく、チャレンジクエスト消化合戦が起きるまで。

 あれはナバールがワルターとフリンに喧嘩を吹っ掛けることによって発生するクエストだが、実際、そのクエストが発生しなかった場合にシナリオの話の流れとしてはどうなるのだろう。
 フリン達はいずれ地下へ――東京へと向かうことになる。その過程でアルラウネは遅かれ早かれ退治される運命ではあるのだろうが、先輩からのいちゃもん攻撃はあるのだろうか。
 ナバールという火付け役がいないままで、あの計画は起きるのか?そもそも、カジュアリティーズ出身というだけでそこまで敵対心を燃やすような人間が、サムライの中にそれほどまでにいるものなのか?


『――マスター?考え事?』
「……いや、なんでもない」


 ガントレットを覗き込んだまま動かなくなった俺を心配してか、バロウズが声をかけてくる。俺はそれに頭を振ってガントレットから目を離すと、休憩室と化している小部屋を後にした。
 先のことを考えるのは後回しにして、一先ずは今受注しているクエストの消化を急ごう。時計がないからわからない現在時刻をバロウズに尋ねれば、実地訓練が始まってから、早一時間が経過しようとしていた。