どうせ死ぬのなら春がいいなぁ。
 血と肉の腐る臭いが立ち込める、死屍累々の荒野で呟いたその言葉は空風に飲み込まれて消える筈だったのだが、背後にいた男には聞こえてしまっていたらしい。「悲観的になるのはいけません、いけませんぞ苑士殿」といやに芝居がかった声が聞こえて振り返れば、予想通りの姿に意図せず溜め息が漏れた。

「そのような態度をとられては傷付きます、とても傷付きますぞ苑士殿」
「ほざけ」

 嗚呼、折角人が心地よい思索に浸っていたというのに台無しだ。「何の用だ」。不機嫌を隠さない声音で放った言葉は「心配で探しに来たのです、ええ、心配で」。そんなものそこいらの雑兵に任せておけばよいものを、こいつはこういう時ばかり空気を読まないものだから嫌になる。

「苑士殿」
「なんだ」
「貴方にとって、曹操とはそれ程の御方だったのですかな?」

 ぴりりと、紙で指先を痛めた時のような感触が頬を掠めた。沸き上がった怒りは口に出す前に飲み込んだが、伸ばされた指先は払い除ける以外の選択肢が見つけられない。

「俺は、お前が大嫌いだよ、陳宮」
「私は、貴方を愛しておりますよ、苑士殿」

 誰にも渡したくないくらい。にやりと邪悪に唇を歪めながら宣う陳宮に、今度は迷わず拳を叩き込んだ。

旅立つならば花を抱いて