話したいことがあったら今の内に、と促された面会をはね除けたのは、けして未練が湧くからだとかそんな理由からではなかった。私と鍾会様との関係をよく知るトウ艾様は、私の返答に静かに頷いて、けれども確かめるように「いいのだな?」と繰り返し問うた。

「……トウ艾様」
「……どうした?」
「私、何も聞かされていないんですよ。何も教えていただけなかったんです。トウ艾様を謀ることも、蜀と繋がっていることも、何一つ、知らなかったんです」

 淡々と吐き出す事実は、真冬の空気のように澄んでいて、冷たい。果たして私は己の不明を恥じるべきなのか、あの人の厚顔を恨むべきなのか。何も知らないことが幸福だなんてそんなことがある筈がないのに、あの人は一体何を考えていたのだろう。
 ひどい人だ。最初から最後まで、本当に、ひどい人。

「いいのだな、苑士殿」
「いいんですよ、トウ艾様」

 たった一言でもくれていたなら、一緒に死ぬくらいは出来たのに。


ネバーランドの死にたがり