美味しいものに美味しいものをかけたらさらに美味しくなるんじゃないかと思ってやった、というのが関興の宣った動機だった。
 そんな思い付きで赤いジャムまみれにされた俺に、選択肢は今のところ三つある。一、食べ物の尊さについて小一時間説教。二、関興のことは無視して風呂。三、流れに身を任せてみる。因みに最有力は二番だ。どろどろと身体の輪郭を這って垂れるジャムの感触が気持ち悪いし現在進行形でそれを舌で拭っている関興も気持ち悪い。牛乳やお茶を被らされるのも嫌だが、かといって砂糖の入ったものはもっと困る。とりあえず関興くん、ベロベロするのやめてくれないかお前は犬か。

「あああもう気持ち悪い!シャワー浴びる!離れろ関興!」
「……まだ沢山残ってる」
「残ってるからシャワー浴びんだよ!」
「食べ物を粗末にするのはいけないことだと父上が」
「食べ物で遊ぶのも同じくらいいけないことなんですよ関興さんや」
「……?」
「あれ、なんで俺が『なに言ってんだこいつ』みたいな目で見られなきゃいけないの?俺悪くないよね?俺なにも間違ったこと言ってないよね?」

 理解できないことを唐突に、かつ平然と仕出かすのは関興の常だが、今回のこれは本当に迷惑この上ない。何かに挑戦しようとする心意気は素晴らしいが、それに人を巻き込むのはやめていただきたい。こういう思い付きで被害を被るのが十中八九俺だと知っているからなおのことそう思う。

「甘くて、美味しい」

 そりゃあそうだろうよジャムだもの。保存のためにお砂糖をしっかり入れてくつくつ煮込んだ美味しい手作りジャムだもの。朝御飯のトーストに塗りたくる前に俺に塗りたくられた可哀想なジャムだもの!
 頬に垂れるジャムを舐める関興の熱い息が甘ったるい。どうせ風呂に入るなら目一杯汚れてやろうかと、半分自棄になってジャムみたいにとろりと濡れたその唇に噛みついた。

クランベリーナイト
カーニバル