頭は良いのに阿呆だ。自らの仕える主人にそんなことを言うのは憚られるが、今はあえて口に出して言いたい。司馬師様は頭は良いのにとんだ阿呆だ。
 戦のない平穏な日々に突如として下された、詳細を何一つ明かされない行軍に皆戦々恐々としていたというのに、着いた先で命じられたのはよもやの食材採集である。「幻の食材をとってこい」。いつになく真剣な表情の司馬師がそう告げた時の兵士達の唖然とした表情が忘れられない。巷では典雅だなんだと噂される程の人間だというのに、私用で軍を動かすその精神と食い意地の張った命令には最早呆れを通り越して感動すら覚えた。

 そうして作った幻の肉まんを虎に奪われた司馬師が、その虎を誅戮せんと得物を振り回しながら追い回す姿を見てやはり苑士は思う。あの人は阿呆だ。冷静沈着な才子の面影などまるでない。

「食べ物の恨みほど恐ろしいものは無いってな」

 肉まんにかぶり付きながら司馬昭様が呟いた台詞に、今日何度目とも知れない溜め息が漏れる。司馬師様の肉まんに対する執着心を嫌というほど知っている身として、なにも言い返せないのが余計に悔しい。

「……司馬師様!そんなに食べたいのでしたら私の分を差し上げますから、此方へ戻って来て下さい!」

 早くも自分の分を食べ終わり、私が手にしたままの肉まんに手を伸ばしてくる司馬昭様の手をを振り払いながらそう叫べば、泣きそうな顔の司馬師様がこちらを振り返った。

一番星を食べた罪