他の奴と比べて随分と小さく華奢な体つきをしていたからだろうか、大袈裟な身ぶり手振りを交えながら呂布殿の周りをちょろちょろぱたぱたと動き回るその姿を、まるで父に甘える小さな子供のようだと思っていた。
 実際のそいつはそんな可愛いげなんぞ欠片もない、胡散臭いことこの上ないおっさんだった訳だが、軍師という者の性なのだろうか、戦の策について語る時には特に嬉々として饒舌になるそいつが、俺は決して嫌いな訳ではなかった。

 度重なる戦による疲労と栄養失調、加えて例年よりも厳しい寒波に追い討ちを加えられて身体を壊して療養していた俺の元へ、奴の訃報を届けに来たのは、呂布に心酔して止まなかった一人の兵士だった。
 陳宮は、最後の最後までいつもの調子で嘯いてそのまま処断されたらしい。あいつらしい最期だ。出来ることならその最期の大傾き、この目で見届けたかった。結局は叶わぬ夢ではあったが。
 思ったよりも悲しくないのは自分がその場にいなかったからだろうか。ぎりりと拳を握り締めて、悔しそうに唇を噛んで、ほろほろと涙を流し続ける青年が、ひどく羨ましく思えた。

「張遼殿は曹操の元へ、呂布殿は処刑され、玲綺殿の行方は……知れません」
「そうか」

 しんしんと雪の降る外の空気を感じながらぼんやりと相槌を打っていると、ふと、あいつの泣き顔はついぞ見たことがなかったなぁと今となってはひどくどうでもいいことを思った。
 泣き顔どころか、心底悲しんでいる顔すら見た覚えがない。呂布に進言を聞き届けて貰えなかったことを悔しがっていることはあったが。芝居がかった身ぶり手振りと表情、あいつ特有の独特な台詞回しに誤魔化されていたのも事実だろうが、それにしたってあいつの面の皮の厚さは群を抜いていた気がする。それもまた軍師という者の性なのか。

「君、」
「っはい、なんでしょうか苑士殿」
「陳宮殿は、笑っていただろうか」

 私の問いに、その時の光景を思い出したのだろう、青年は苦い顔のまま一つ頷いた。そうか、うん、そうだろうなぁ。

「……軍師とは、悲しい生き物だなぁ」


道化師の一般的な死に方