≫動物に好かれまくる蜀の厩番


タイトルまんま、やたら動物に好かれる体質の厩番が蜀で動物の世話しながら蜀漢の人々(主に西涼+魏延)と交流していくお話。

夢主の家は代々が行商を営んできた商家というか交易家。土地から土地へ、品物を仕入れては旅先で売りを繰り返しながらちまちまと財を築きつつ暮らしてきた。
商売をする身である以上、家族も各々が最低一つはその物の価値を見抜く審美眼と品物との廻り合いの運を持つもので、夢主の場合はそれが動物だった。

道を歩けば犬や猫がやたらと寄ってくるし、木々の生い茂る土地にいれば自然と鳥が集まってくる。野宿の際には気付けば野生の虎や狼やパンダまでもが夢主の側に集まってきて寝てるし、なんか肩が重いなぁと思ったら鷹や鷲が乗ってたこともざらにある。
そんな生活をしていたからか否か、動物好きで世話好きな気質でもあった夢主は、動物専門の行商人となり、夢主にきちんと躾られ世話されて育てられてきた動物達は自然と客の評判もよく、気が付けば「動物の取り扱いならあいつだ」と言われるまでの有名な商人となっていたという。

そんな夢主が蜀に居着いた理由、それは夢主が蜀に行商に来ていた時、一頭の迷い馬を保護したことから始まるのです。

蜀にて、取引を終えた夢主が宿を探して街中を歩いている時、なにやら俄に通りが騒がしくなる。聞けば暴れ馬が此方に向かって駆けてきているとのこと。蹄の音も高らかに駆けてくる一頭の雄馬と、さっと道を空けて馬を避ける住人達。随分と慣れた様子だなと思いながらも堂々と馬の前に立ち塞がる夢主(※よい子は真似しちゃいけません)。
咄嗟のことに夢主を避けるように見事な跳躍を見せたのは一頭の黒馬。手綱は付けられているものの、あまり手入れがされていない毛並みにちょっと違和感を覚える夢主。そして大人しくはなったけど、どこか怯えた様子で自分を見る馬に予感は確信に変わる。

あ、この子、主人から虐待を受けてるんだな、と。

動物に人一倍の愛情を注ぐ夢主にとって、んなことするやつぁ万死に値する人間な訳で。このお馬さんのご主人様を知ってる人がいるかと聞いてみればなんと蜀の将軍様である。
夢主ムカ着火ファイヤー。
馬とは戦場においては我が身と同じと言える程に大事な戦友である。戦を生業とする兵士が、しかも将軍という地位にまで就かれているような方が、その馬に対して非道な扱いをするなんて言語道断。

地位とか気にしていられない。お馬さんを宥めつつもふつふつとたぎる怒りをなんとか堪えていれば、やがて一人の男が姿を表す。この人こそお馬さんの飼い主にして蜀の将軍、西涼の錦馬超その人であります。

お説教食らわせてやろうと口を開きかけた夢主、その場で瞬間的に土下座した馬超。そのあまりに見事なまでの土下座に思わず夢主ぽかーん。道行く人も皆ぽかーん。しかも次の瞬間には「俺をお前の弟子にしてくれ!」といきなりの弟子入り志願。夢主再びぽかーん。その反応に夢主がふと疑問を抱く。あれ、なんかおかしいぞ?と。見ればお馬さんもどこか反応がおかしい。周囲の人の目に見せていたような怯えが、少なからず消えている。おや?

「…あの、とりあえずこの馬の飼い主で間違いない、ですよね?」
「ああ、確かにそれは俺の馬だ」
「……一応お聞きしますが、まさか貴方この子に虐待なんて……」
「な、だ、断じてそんなことはしていない!…俺は、していないのだが…」

何故か言い淀む馬超にどうやら訳有りらしいと察した夢主は、住まいに馬を連れていく道すがら詳しい事情を聞くことに。

このお馬さんは、馬超が知人より譲り受けたものなのだが、その知人がどうにもひどい扱いをしていたらしく、人にひどい不信感を抱いているという。
それをどうにかしてやりたいとは思いつつも、触ろうとすれば暴れたてるし、今日のように外に連れ出せば逃げ出す始末。野に放ってやるにしても、せめて落ちた体力を取り戻すことが出来てからにしてやりたい、と。
弟子入り云々はお馬さんがなついている人間を初めて見たから感動してしまい思わず、ということらしい。
しょんぼりと肩を落としながら一通りの事情を説明してくれた飼い主さんを見て、一先ずはこの人が虐待してた人じゃなくて良かったと思う反面その知人くたばれとか思う。
お城の厩舎にお馬さんを戻してから、折角だからと毛並みを整えてやったりしておく。普通に触れ合う絶影と夢主を馬超が羨ましそうに見てたりね。

「馬超さんは、絶影くんが大好きなんですね」
「ああ。なんというのか…一目惚れ、だったのだ」

照れ臭そうに語る馬超を見て、この人なら大事にしてくれそう……というよりも大事にしてくれたのだろうな、と思う夢主。
夢主が思うに、絶影も馬超に対して心を開きかけている。ただ過去の傷がそれを躊躇させているだけで。
旅をして回っている間、色んな飼い主と動物達の幸と不幸を見てきた夢主は、どうにか馬超と絶影の信頼関係を結べないかと画策し始めます。

結果的に馬超と絶影は人馬一体と称されるまでの素晴らしい絆を築くわけですが、この間に馬超絡みで馬岱とひと悶着あったり、魏延になつかれたり、蜀の面々と顔見知りになったり時々愚痴聞いたり……と、いつの間にか蜀国の支援獣達の世話役になってしまっていて、じゃあ馬超さんの問題解決したし再度行商人として旅立とうとした時には「どこに行こうというのだね?」状態に。

「お前にはまだ絶影との絆を築かせてもらった恩を返せていない!」
「若の言う通りだよー!この子達だって君にすっごくなついてるし!ね?一生のお願いだから此処にいてよぉ!」
「我…、オ前…好キ……居ナクナル…寂シイ……」
「お主がおらねば赤兎も悲しむ。どうかこのまま、世話役を続けてはくれまいか?」
「そうだぜ!俺達にお前みたいにやってみろって言われたって、絶対上手くできっこねぇし!」
「…あなたといる動物達は、みな幸せそうだ」

もう出るわ出るわ、引き留める声が将軍から兵卒から山のように。しまいには劉備様と諸葛亮先生まで出てきてしまったもんだから、もう逃げ場なんてない。

えー…、私元はただの行商人なのに。
でもまぁ動物の世話するだけなら別にいいか、と納得してしまった夢主は、こうして蜀に居着いて動物の世話役としてのんびり暮らすのでした。どっとはらい。