≫張苞と俺の姉が結婚するらしい


※現代


 生まれた時から家が隣同士で兄弟同然に育った奴が、この度本当に『兄貴』になるらしい。
 妙にめかし込んだ姉と肩を並べてソファーに腰掛け、向かいの席に座る俺の親父とお袋に「お嬢さんと結婚させてください」と頭を下げる張苞。初めて見る立派なスーツに身を包んだそいつは「なにカッコつけてんだよ似合わねー」と茶化す気すら起こらない位に真剣で、まるで同じ名前の別人がそこに座っているみたいだった。

「っあー!!緊張したーっ!!」
「ガッチゴチだったもんなお前。んな固くなんなくてもいいのに」
「そーゆー訳にもいかねぇだろ、こういうのはキッチリしとかねぇと」
「……お前昔からそういうとこ真面目だよなぁ」

 すっかりお祝いムードになってしまったリビングがどうにも居心地が悪くて、早々に自室に退散した俺の後を追うように、勝手知ったるといった様子で入り込んで来た張苞は、我が物顔で俺のベッドに寝転んでいる。折角のスーツが皺になるぞ。憎たらしいくらいに、カッコいいのに。

「…つーか、お前も趣味悪いよな。よりによって姉貴選ぶとか」
「シスコンのお前が言っても説得力ねーぞ、それ。挨拶の間中人のこと睨みつけてきやがって」
「はいはい、悪かったよおにーさま」
「もっかい」
「あ?」
「もっかい呼んで。今の『おにーさま』っての」
「キモい」
「なんだよー、昔お前言ってたじゃねぇか、『俺が兄貴だったらよかったのに』って」

 ――俺、お前みたいな兄貴が欲しかったなぁ。

 それはいつの日のことだったか、受験の鬱憤と片想いの苛立ちに疲れはてた俺が張苞に言った台詞だった。羨望の形をとった、皮肉だった。本当にそう思わなかった訳じゃない。けれど、張苞の解釈と俺の本意とは大きな隔たりがある。全くもって、皮肉だ。報われない想いが吐き出させた毒が、今になって何十倍もの猛毒になって返ってくるだなんて。

「これで、ずっと一緒だな」

 ああもう、ふざけんな、好きだ、お前が好きだよ、大好きなんだよ、そんな幸せそうな顔で、これっぽっちも嬉しくないそんな台詞言うんじゃねぇよ。ふざけんな、ばかやろう。


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これで張苞が夢主が好き(イエスLOVE)で、ずっと一緒にいたいがために夢主と恋人になるのではなく夢主の姉と結婚して夢主の家族になるという斜め上の方法に出てたりしたら個人的に胸熱