≫付き人迷走中


※『嫌よ嫌よも好きの内な司馬子元』の二人が恋仲に至るまで
※延々会話文
※デフォルト名『苑士』



「友よ、俺の話を聞いてくれ」
「おう、どうした苑士」
「昨夜司馬師様に夜這いをかけられた」
「……なに、ヤっちまったの?」
「ヤってない!つーか!司馬師様まだ弱冠十二歳!俺もあの方も男!俺にそっちの気は張春華様の毛穴ほどもない!」
「なんだよ意気地無しぃ。主様に求められたことには誠心誠意尽力するのが従者の務めだろうが」
「お前が将来敵の捕虜になって凌辱の限りを尽くされ衰弱死するよう呪う」
「そうなる前に舌を噛む」
「寧ろその前に俺が奪還しに行く」
「俺今ならお前に掘られてもいい…!」
「お前相手じゃ勃たねぇよ」
「……え、お前まさか」
「………………」
「やだー苑士ちゃんへんたーい」
「トウ艾殿になら抱かれてもいいとか言ってたお前に言われたくねぇ」
「つーか勃ったんならヤっちまえばよかったのに。もったいねー」
「お前がひょんなことから変態の極みの下衆に取っ捕まって生ける屍と化すように呪う」
「じゃあ俺はお前が司馬師様と大団円を迎えるように流れ星に祈る」
「本当に叶いそうだからやめろ」



「苑士」
「なんでしょうか司馬師様」
「好きだ」
「……肉まんがですか?」
「お前を挽き肉にして作った肉まんはさぞや美味かろうな」
「司馬師様ったら目が本気じゃないですかやだー!」
「冗談だ(じゅるり)」
「今ヨダレ啜りましたよね?啜ってましたよね?」
「苑士」
「はい」
「小腹が空いた」
「……今ご用意致します」
「二人分用意しろ」
「承知しました」
「……お前の分だぞ」
「はい、承知しておりますよ」
「ならいい」
「はい」



「苑士よ」
「はい、なんでしょうか司馬懿様」
「あー……最近、師とはどうだ?」
「どう、とは?」
「その、だな、お前達の間に妙な空気が流れていると、噂が…だな…」
「告白されました」
「ぶっ!?」
「三日前には夜這いをかけられました」
「!!?」
「司馬懿様」
「な、なんだ…?」
「生涯手は出さないとここで誓いますからどうか田舎に帰る許可を下さい」
「そんなことをしたら私が師に殺されるだろうが馬鹿めが!」



「苑士」
「はい、なんでしょうか司馬師様」
「お前が好きだ」
「ありがとうございます」
「…………」
「…………」
「苑士」
「はい、なんでしょうか司馬師様」
「私は、お前が好きだ」
「ありがとうございます」
「……今のお前は、少し嫌いだ」



「手を出しかける前に実家に帰りたい」
「いーけないんだーいけないんだー司ー馬ー懿様にー言ってやろー」
「お前の生涯にそこはかとない不幸が付きまとうように呪う」
「寧ろ今お前が呪われてんじゃねぇの」
「オイコラお前今司馬師様の純粋な恋心を呪いとか抜かしやがったか殺すぞ」
「やだこのこ面倒臭い」



「苑士」
「はい、なんでしょうか司馬師様」
「お前の初恋はいつだ?」
「…えー…」
「相手はどんな奴だった」
「……司馬師様は何故そのようなことをお知りになられたいのでしょうか?」
「…………」
「司馬師様?」
「……好き、な奴のことを、知りたいと思うのは、別におかしいことではないだろう?」
「(トゥンク)」



「日毎可愛くなっていく司馬師様が末恐ろしい」
「着実に新しい扉開いてってるなお前」
「なんなんあの子。なんなんあの子。神の子かなにかなの?天はあの人に二物も三物も与えすぎなんだよなんなんだよ今からあんな可愛らしくて将来どうなるのあんな人が野放しになってたらいつか本当に浚われて囲われてあんなことやこんなこと」
「…まぁ従者として主君に惚れ込む気持ちはわからんでもないけど…司馬師様はどちらかといえば『美しい』とか『麗しい』じゃねぇの?可愛さでいったら司馬昭様の方が上だろ」
「お前目ぇ大丈夫か?」
「寧ろお前の頭が大丈夫かよ」
「あ?」
「あぁ?」



「苑士」
「……司馬師様、こんな夜更けにどうされました」
「……一緒に寝たい」
「…………」
「一緒に、寝るだけでいい」
「………………」
「…だめ、か?」
「……一晩だけですよ」
「!(パアッ)」
「(俺、今晩眠れるかな……)」



「祝・開通!」
「なにもしてねぇよくたばれ!」



「……苑士、師に言付けを頼めるか」
「はい、なんでしょう」
「くれぐれも病気には気をつけろと」
「凄く他意を感じる言付けな気がするのは気のせいですかっていうかわざわざ私を介してということはそういうことですよね?!」
「最悪、世継ぎは昭に……」
「諦めんなよ!諦めんなよ!!」



「苑士」
「…はい、なんでしょうか司馬師様」
「…………」
「……?」
「……私は、どうしたらいい?」
「はい?」
「どうすれば、お前の特別になれる?」
「……ならば、そのままで」
「…………」
「司馬師様が司馬師様である限り、私にとって、貴方様は唯一無二の特別な存在ですよ」
「……そうか」
「はい」
「苑士」
「はい、なんでしょうか司馬師様」
「私は、お前が好きだ」
「……ありがとう、ございます」



「……あのさぁ」
「ん?」
「お前なんでそこまで司馬師様のこと拒んでんの」
「…………刷り込み」
「は?」
「刷り込み、だと思うんだよ。愛情の。司馬師様、ずっと俺のこと嫌い嫌い言ってただろ?強烈に焼き付いてた嫌悪の感情が裏返って、それを恋だと錯覚してるだけなんだ、きっと」
「……お前、ホンットめんどくせ」
「天命だ、仕方がない」
「司馬師様の口癖移ってる」
「お前だって司馬昭様が乗り移ってる」
「その言い方はやめろ」



「……」(肉まん頬張り中)
「……(可愛いなぁ)」
「……」(肉まんもふもふ)
「……(肉まん食べてる時の司馬師様は幸せそうで一等可愛い)」
「……」(ひたすらもふもふ)
「……司馬師様」
「む?」
「口の端が汚れています。お拭きしますからこちらを向いて下さい(頬ぱんぱんにしてる司馬師様本当に可愛い)」
「む……、すまない」
「いいえ(幸せ、だなぁ)」



「俺多分、次に夜這いかけられたらそのままいただきますする自信ある」
「俺に言うな」
「そしたら俺、司馬懿様に事後報告して田舎にもどるんだ……」
「露骨に何かを意図した台詞を吐くな」
「司馬師様ぶち犯した罪で斬首されて死にたい」
「死ぬなそなたは美しい」
「お前に俺が救えるか」
「医者に行くか女を買え」
「正論…だと…」



「大変だ友よ」
「三行で頼む」
「俺医者行く・重病発覚・隔離で治療」
「…………は?!」
「俺、家の事情で田舎帰る設定になってるんで。俺がいない間、司馬師様のこと頼むな」
「いやいやいやいや!!ちょ、ま、えええぇぇえ?!」



「(そして早三月……か……)」
「……、」
「?どうかなさいましたか司馬師様」
「……私が私である限り、苑士にとって私は、唯一無二の特別な存在なのだそうだ」
「……はい」
「ならば、変わったのは私自身なのかもしれん。……いや、変わった、のだろうな。だから、あいつは……」
「大丈夫ですよ」
「?」
「“俺がいない間、司馬師様を頼む”って苑士が言ったんです。そう簡単に死ぬわきゃないんですよ。ていうか、無事に帰って来てもらわねぇと心労と過労で俺が死ぬ」
「…………、一つ聞く」
「はい、なんでしょう」
「家の事情で帰った筈の苑士が何故命を危ぶまれるのだ…?」
「ウワァ、ヤッチマッター」



「………………」
「………………」
「…………うっかりゲロっちゃいましたテヘペロ☆」
「てめぇ死んだら末代まで呪ってやるから覚えてろ」
「……そんなに深刻な状態なのか」
「いや、明日には出発する予定だったんですが……っとに肝心なところで尻尾捕まれやがって糞が」
「サーセン」
「…………」
「……ご心配を御掛けしたようで、申し訳ありません。司馬師様。もう大丈夫ですから」
「…………たし、が」
「……はい?」
「……わ、たし、が、お前を、好き、だな、て、言ったから、もう困らせな……って、悲しませな、って、やく、や、約束、したのに、……こまら、せたっ、からっ、いな、い、いなく、なっ……た、と、おもっ……!」
「……いなくなったりしませんよ。少なくとも司馬師様に捨てられない限りは」
「しない、すて、すてたり、しない、ぜったい、しない、!」
「はい、信じておりますよ」
「う、うぅー…っ、ぅ、ぅ…っ!」
「…………俺、先帰っていい?」
「ああ、明日司馬師様と一緒に帰るって司馬懿様に連絡頼むわ」
「へいへい」



「……いい加減泣き止んで下さいよ」
「(ぐすぐす)」
「(涙目で睨まれても可愛いだけなんだってばさ)……あのですね、司馬師様」
「……う?(ぐしゅっ)」
「(だから一々可愛いんだってば)出来れば離れていただきたいんです。せめて膝の上から」
「……そんなに、いやなのか?」
「(ああくそしゅんとすんな抱き締めたくなるからしゅんとすんな)嫌とかじゃなく、その、差し障りがあるといいますか、今現在で司馬師様断ちもギリギリ臨界点でこのままだと俺の理性プッツンでアッーな展開になりそうというか絶対なってしまうというか」
「端的に言え」
「あんたが好きだから食っちまうぞ」
「………………」
「……そういうことなので、出来れば別の部屋でお休みになっていただきたい、なと……」
「…………食べて、くれないのか?」
「っああもう駄目だいただきます!」
「っわ、」



「で、ヤっちまったと」
「はい」
「いたいけな少年の身体を組み敷いてくんずほぐれつうふんあはんを」
「流石にぶちこんではない」
「素股か」
「反省はしている」
「後悔は?」
「してない」
「よーし、司馬懿様の呼び出しだ逝ってこい!」
「『いってこい』の字が確実に違ってただろ今……」



「…………一先ずは、よく帰ってきた」
「……はい、お手数と面倒をお掛けしました」
「完全に治ったのか?」
「はい。この一月は様子見と体力を戻すのに使っておりました。再発の兆候も見られないと」
「そうか……」
「はい」
「ゴホン!……で、だ。師のことなのだが……」
「(来たか……)はい」
「……正直、申し訳ないと思っている」
「…………は?」
「……あやつには、期待を背負わせ過ぎたのだろうな。初めての子だから、私の跡を継ぐ者だから、その才があるから……大人の期待は、子供には荷が勝ち過ぎよう」
「……それに応えられるということは、司馬師様が聡明であらせられる証明でもあります。誇っても、傲っても、仕方のないことかと」
「お前もだぞ、苑士」
「え、」
「お前を師の従者として選び、それを強いたのは私だ。……お前にも、随分と苦労を掛けた」
「いいえ!けしてそのような、」
「黙って聞け!……いや、今更何を言っても言い訳に過ぎぬか」
「………………」
「苑士よ」
「、はい」
「師のこと、頼んだぞ」
「……はい!」



「うぇえ……緊張した……」
「お疲れさん。けど晴れて親公認になったんだ、それくらいはしょうがねぇよ」
「いつ司馬懿様の後ろの張春華様から鉄糸が飛んでくるかと……」
「そりゃ有り得ねぇだろ。最初っからお前ら応援側だったじゃん奥方様」
「なん…だと…?」



「苑士、苑士」
「はい、なんでしょう司馬師様」
「お前が好きだ」
「はい、ありがとうございます」
「………………」
「……なにかご不満が?」
「……お前は、私が好きか?」
「いいえ」
「……!!」
「愛しておりますよ。心の底から」