≫嫌よ嫌よも好きの内な司馬子元


※子司馬師
※まるっと会話文
※なんかやたら長い
※短編のデフォルト名『苑士』を使用してます(変換はできません)


「私はお前が嫌いだ」
「そうですか」
「父上がどうしてもと仰るから傍に置いているのだぞ」
「はいはい」
「……私が大人になったら、お前は無価値になるのだからな」
「そーですね」
「…………真面目に聞いているのか」
「司馬師様が俺を大嫌いだというお話でしょう?」
「……小腹が空いた」
「もうすぐ肉まんが届きますから、手を洗ってきて下さい」



「昭の付き人は優秀だな」
「そーですね」
「何もかもが並なお前とは大違いだ」
「そーですね」
「……悔しいとは思わないのか」
「事実ですから」
「…………凡愚め」
「ええ、その通りですとも」



「うぁー…疲れた…」
「嘘つけ。お前今司馬師様付きだろ?羨ましいよ。あの方なら司馬昭様みたく手もかからないだろうし」
「……確かに手はかからないが口が立ちすぎて嫌だ」
「お前なんか嫌われるようなことしたんじゃねぇの?」
「初対面から『おまえがきらいだ』とか言われてるのに毎日ちゃんと仕事してる俺ちょう健気」
「自分で言うな」
「……あー、でもそろそろ本気で実家に帰りたい……」
「いくら聡明ったってまだまだ子供なんだから、多少のことは許してやれよ」
「堪忍袋の容量ぎりぎりなんだけど」
「耐えろ。首が飛ぶぞ」
「いっそ飛んだ方がマシ」
「やべぇこいつ早くなんとかしないと」



「おい」
「(マジで俺なんでこんなくそ生意気な子供の面倒見てんのかなー)」
「おい、」
「(出世街道まっしぐらー!とか思ったあの日の俺を殴りたいわー)」
「――聞いているのか凡愚が!」
「あだっ!……あ、司馬師様」
「…………」
「も、申し訳ありません、少し考え事を……」
「ほう、お前のような能天気でも考える脳はあるのだな」
「……申し訳ありません」
「……喉が渇いた」
「はい、今すぐに」



「――あ、司馬懿様」
「師の様子はどうだ?」
「特にお変わりはありませんね。勉学も剣技も真面目に取り組まれています」
「そうか、あれは少々気難しいが、お前にはよくなついている。これからも頼むぞ」
「……はい」



「私はお前が嫌いだ」
「(またか)はいはい」
「私は、お前が嫌いだ」
「(聞こえてるよ糞ガキ)そうですか」
「父上がどうしてもと仰るから傍に置いているのだ」
「(俺の台詞だよ)はいはい」
「私が大人になったら、お前はなんの価値もなくなる」
「(寧ろ見限ってくれ)そうですね」
「……だが、お前がどうしてもと言うならずっと傍に置いてやらんでもない」
「え、絶対やだ」
「…………なに?」
「あ」



「人生終わった……」
「御愁傷様」



「あにうえー、あにうえー」
「…………」
「あにうえ、まだないてるの?」
「……な゛い゛でな゛い゛」
「こえひどいよ、あにうえ」
「…………なんの用だ、昭」
「あにうえ、またえんしにひどいこといったの?」
「……またとはなんだ」
「だってあにうえ、いっつもえんしに『ぼんぐめ』とか『やくたたず』とかいってるから」
「…………」
「あにうえ、すきならちゃんと『すき』っていわないと、えんし、どこかにいっちゃうよ?」
「どこかって、」
「だってこのあいだおれのつきびととえんしがはなしてたもん」
「うそだ」
「うそじゃないよ」
「うそ、うそだ、うそだ!」



お前が頑張ってたこと知ってるよ父上がお前を一番目をかけていたことも知ってるよだから私の世話役を任せたのだと知っているよ勉強も武芸も誰より優秀で本当ならもう戦場に出る筈なんだってでも私がいるからそれが役目だから離れないんだって知ってるよいつも眠そうなのは寝る間を惜しんで私が好きそうな本を読みあさってなんでも答えられるようにしているからで歩き方が変な時は休みの間中私が欲しいと言ったものを探し回って靴擦れを起こしたからでうたた寝してると起こさないように寝台に運んでくれていることも火傷しないようにお茶を冷ましてから出してくれることも、

お前が意地悪ばかり言う私を快く思っていないことも、
お前が私の早く私の傍を離れたいと思っていることも、
お前が嫌いだっていう私の言葉が私が私自身についた嘘だってことも、

全部、知ってるんだよ。



「嫌いなんて嘘だから、ひどいこと言ったこと全部謝るから、許してくれるまで謝るから、」

「だから、どこにもいかないで」



「………………」
「……だ、そうだが、苑士」
「…ええー…いや、正直そんなこと言われましても…」
「ぶぇええええええごめんなざい゛い゛いいいいいいいいい」
「うわ、ちょ、司馬師様やめて下さい鼻水つけないでください。はい、ちーん」
「ぐすっ、ずっ(ちーん)」
「あーあーあーどんだけ泣いたんですか目が兎みたいに真っ赤だ」
「……だっ、て、お前が、おま、おまえがぁっ!」
「ああもう!わかりましたよ辞めませんよ実家にも帰りませんよこれまで通りお仕えします!」
「!…ほんと、か?ほんとに、私の傍にいるか?」
「はい(首を縦に振らないと司馬懿様に殺された後に張春華様に殺されるからとか言えない)」



「……で、気付けば天下統一までお仕えしてるんですから長いですよねぇ」
「私が顔に傷を負った時のお前の慌てぶりは見物だったな」
「私が怪我をした時の貴方の死にそうな顔こそ見物でしたよ。たかだか薄皮一枚切れただけなのに」
「私が倒れた時『死んだら冥土まで追い掛けてでも殺すからな!』と泣きながら叫んだのはどこの誰だ」
「私が流行り病にかかった時に『このまま死んだら来世まででも追い掛けて殺してやる』と泣き縋ったのはどこのどなたですかねぇ」
「…………」
「…………」
「愛しているぞ、苑士」
「はい、私もですよ司馬師様」



「恥ずかしいから余所でやってくださいよ兄上…」