≫疲れてる陸遜


≫仕事に忙殺されてた陸遜が甘えたがってるだけ
≫夢主はとりあえず年上



「私と心中してください」

 まるで、一世一代の告白をするかのような真剣な声音でそう呟いた彼の瞳はこの場に唯一在る人間の私ではなく、彼自身が筆を滑らせている最中の竹簡に向いていたので、ああこれは相当きているな、と山と積まれた竹簡の間から辛うじて伺える頭髪を見ながらそう思った。

「…政務と心中しようとなされるとは、将の鑑ですね陸遜都督」
「十歩譲って駆け落ちでもいいです」
「その竹簡は明日必要な議案書なので持ち逃げされると困りますねぇ」
「貴方に言ってるんですよ」
「ええ、存じておりますよ」

 既に出来上がっている竹簡をそれぞれ必要な提出先へと持っていくように使いを出すと、二人だけとなった部屋に束の間の静寂が降りる。かたり、と聞こえてきた小さな音は彼が筆を置いた音だろう。深く長い溜息と共に鈍い音が響き、その音源の余波を受けたらしい竹簡が揺れて更に小さく音を立てる。
 ざっと積まれた山を確認すると、先程運ばせた分で急ぎと判断していた物は終えたらしい。労りを込めて机に臥している彼の頭を撫でれば、勢いよく伸びてきた手が私の手を捉える。首を横たえて上目遣いで私を仰ぎ見る彼が、そのままぽつりと、私の名を呼んだ。

「私と、心中してください」

 真剣に、けれども寝惚けているかのように曖昧に呟かれるその言葉が本気でないことは勿論理解している。彼とてそのつもりだろう。些か性質の悪い冗談ではあるが、それが彼の疲労の大きさを如実に表している。
 どうせからかうなら可愛らしい女官にでも言ってやればよいものを、と考えて、直ぐ様その考えを打ち消した。冗談を冗談ともとれない相手だったら厄介なことになる。なまじ顔が良く普段から誠実で真面目な彼に、こんなに真剣にそんなことを言われたら、うっかり頷いてしまう者もいるだろう。
 ぎゅう、と縋るように握られた手がいつもより暖かく感じられた。眠たいのだろうか。真面目な彼のことだ、ここ最近の仕事量とその処理速度を鑑みれば、寝ずに執務にかかっていてもおかしくはない。彼は元より要領はいい方ではあるが、それを上回る真面目な性分をしているから損をする。もう少し他人に甘えたとしても誰も咎めはしないだろうに。

「陸遜都督」
「…二人の時は字ですよ」
「…伯言さま、お休みになられるのならば寝台に行かれませ」
「共寝してくれるなら、行きます」

 ……だからといって、甘えん坊を通り越して駄々っ子になるのは勘弁して頂きたいのですがね。伯言さま。