≫馬超の双子弟と若ばかり見ていた馬岱


≫主は知略を見込まれて曹操に拾われている。
≫夢主は馬超のことが王異並に大嫌い&病んでる。
≫最終的に何書きたかったのかわからなくなった←



 昔から武勇に優れて、正義を愛し悪を憎む純粋な兄は俺にとって劣等感を刺激する嫌な存在でしかなかった。俺の欲しいものを全て持っていってしまう、清く正しく、眩しい程に輝かしい俺の兄。父の期待も、兵からの尊敬も、民からの敬愛も――あいつからの、好意も。
 妬んで羨んで疎んで憎んで、兄とは正反対に暗くてひねくれた性格の俺が愛されるなんて烏滸がましいと自分でも思ってるけどさぁ、よぉく考えてもみてくれよ。

 俺がこの世に生まれた最初から、こんなねじくれた性格だと思ったら大間違いなんだよ。

「…う、そ……でしょ、」

 ――――なんで。
 俺を見て驚愕と困惑と絶望をない交ぜにした表情を浮かべた馬岱が呟いた言葉は、周囲に満ち溢れる兵達の阿鼻叫喚と血腥い戦乱の空気に飲み込まれて消えた。俺が大好きな馬岱の声を一言一句聞き逃す訳がないけど、それをわざわざ掻き消すように声を上げながら襲い掛かってきた敵兵は正直腹が立ったのでその刃が届く前に首を落として黙らせる。綺麗な断面からびしゃびしゃと吹き出した血は、俺に降りかかることなく地に吸い込まれていった。
 ……あーあー、汚い臭い気持ち悪い。
 折角の感動の再会が台無しじゃないかどうしてくれるたかが兵卒風情が畜生。血濡れの飛翔剣を空中でくるりと泳がせて切っ先を向ければ、馬岱は慌てて妖筆を抱え直して身構えた。

「…久しぶりだねぇ、馬岱。元気にしてたぁ?」

 久々の再会だからと最高の笑顔を向けたのに、予想に反して馬岱の顔は決して喜びとは言えない形に歪んでいく。
 ひどいなぁ、喜んでくれないのか。
 長安以来生死すら確認出来なかっただろう俺との感動の再会だっていうのに――――ああそっか、馬岱は昔から俺が嫌いだもんね。なら仕方がない。俺と会ったって嬉しくないんだもんね、喜べないよね、お前がだーいすきな兄上をだーいきらいな俺と会ったって。

「…どうして、君がそっちにいるの」
「見てわかるでしょー?俺、曹魏の将だからね」
「っなんで?!なんでよぉ!どーしてよりによって曹魏なの、なんっでわざわざ、そーやって若に憎まれるような真似をするの!」

 ……あーあーあーあーやーっぱり兄上を引き合いに出す。二言目には若、若、若、若。お前は昔っからそうだ。馬岱は昔から兄上しか見てない。兄上だけが唯一で兄上だけが大好きで兄上のことしか見てなくて兄上だけが常に至上で最上で最優先で。
 一族を皆殺しにした曹操を憎んでいる血を分けた俺の兄上、西涼の錦馬超。実直で、勇猛で、眩しいくらいに正義の心に満ち溢れた、俺がこの世で一番大嫌いな存在。俺の全てを奪っていった人。俺の全てを失わせた人。
 ああ腹立たしいああ気持ち悪い。吐き気がする吐きそうだねえ馬岱なんで俺がこっちにいるか分かってんのお前らが俺の制止振り切って長安に再出撃した後にやってきた連中に捕らえられてさぁ俺大変だったんだよ皆殺されて皆皆殺されちゃって俺だけ頭いいから働くなら助けてやるとか言われて味方いないしでも死にたくないから必死に働いてさそれなのになんで俺悪者みたいな目で見られてんの意味わかんない俺じゃねえよ俺悪くねえよ寧ろ悪いのお前らだろうが死ねってか死んどけよってか兄上の敵になるくらいなら潔く死んどけよってかやだよ俺死ぬの怖いもん何度も死にかけたけどさ殺されかけたけどさ仲間に俺の命狙ってるおねーさんいるけどさっていうかなにその目ホント意味わかんないああああああああもう腹立つなぁ兄上嫌ってちゃ憎んでちゃ敵になってちゃ悪いのかよ誰もがお前みたいに若大好き劉備様大好き正義と仁に生きていける訳じゃねぇんだよ綺麗事だけで生きてけるならそもそも戦なんて起こるはずがねぇだろうがお前の大好きな西涼の錦馬超さんだって今や立派な復讐の鬼だろうが正義どこ行ったんだよ私怨で人殺しまくってただの悪鬼じゃねぇか俺ばっか汚いものみたいなそんな塵を見るような憐れんだ目で見んじゃねぇよ!!

「…君は、そんなに若が憎いの?」
「……お前、馬鹿だねぇ。本っ当に救いようのない馬鹿だよ、お前」

 なぁ馬岱、俺達一体どこで間違ったのかなぁ。俺はただお前が好きで、お前は兄上が好きで、昔はただ、それだけだった筈なのに、なぁ。