≫凌統に父兄を殺された甘寧の部下


殺す人間に家族がいれば殺される人間に家族がいるのもまたしかり。父を殺した甘寧を恨んでいる凌統と、凌統に父兄を殺されたけど恨んではいない甘寧の部下のお話。
なぜ私が呉軍で妄想しようとするとこうも薄暗かったり重い話になるのか。謎。

夢主は甘寧が黄祖配下時代から付き従っている戦闘員。甘寧を追い掛け回っていたせいか足が速い。夏口で甘寧と共に出陣した父兄を凌統に討ち取られてる。血の繋がりはない家族だったけど、産みの親より育ての親。甘寧との歳の差は二桁〜五、六歳差くらい。若いっていうかやや幼い印象。
甘寧と共に呉軍入りしてそのまま甘寧配下の兵になった夢主は、甘寧につっかかってくる流れで凌統に出会う。あれなんかこの人見たことあると思ってたら、それもその筈、先の戦で甘寧とやり合ってたお兄さんだよ。そして自分の父兄を殺した張本人でもあったよ。
あーこりゃお父さんもお兄ちゃんも負けるわーと凌統を見ながら思う夢主。恨んでるとか憎んでるとかはない。そりゃ死んだときは悲しかったし散々泣きはらしたけども、これも戦の世の摂理よな、と一晩泣いたら納得した。二人共戦好きだったから戦で死ねたなら本望だろ、くらいに思ってる。
甘寧に対して憎悪剥き出しの凌統に対しては、疲れないのかなー、程度。喧嘩に得物持ち出して来なきゃ静観してる。甘寧自身が気にしてないみたいだし、凌統も一応仲間だという意識はあるのか本気で殺しにはかかってないし。制止役の呂蒙さん毎回胃が痛い。

大概甘寧と一緒にいる夢主も時々凌統に突っ掛かれたりしながら、その内迎えたのが合肥の戦い。相変わらずな調子の二人を見ながら、なんとはなしに夢主が溢す。

「凌統さまはさー、結構頭がかたいっていうか、視野が狭いね」
「……アンタだって家族を失ってみりゃわかるさ。ましてそいつが仲間になんてなっちまった日には、そりゃあもう毎日が地獄だよ。殺してやりたい奴が悠々と暮らしてるのを嫌でも目にするんだからね」
「んー…(おれ別に凌統さまが生きて側にいてもなんも思わないけどなー。おれがおかしいんかなー)ねー、凌統さま」
「なんだい?」
「凌統さまはさー、おれの親父と兄貴の顔、覚えてる?」
「…………は?」

そんなの覚えてるわけないよねー。
腕の立つ武将ならともかく、雑兵の顔なんていちいち覚えてる筈がない。それがわかってるから夢主は凌統を恨めないのかもしれないね。自分が恨みに思ってても相手が「誰それ?」じゃ復讐しても意味がない。なんか意味深なことだけ呟いて去っていった夢主に調子狂わされた凌統。この時点でまだ夢主の父兄を殺したことは知らないけど、少し夢主に目を向けるようになる。

ちょっとずつ夢主と交流してるとその流れで甘寧もちょくちょく視界に入るわけで、ちょいちょいイラッとしたりモヤッとしたりしながらも二人を観察する凌統。いさかいが緩和されたと呂蒙さんちょっと安心。

で、夢主と友達と言える程度には仲良くなれたかという時期に、ふとしたことから凌統は知っちゃうわけです。夢主の父兄を殺したのが自分だということを。合肥の時夢主が言った『凌統さまはさー、おれの親父と兄貴の顔、覚えてる?』という台詞の意味を。
そこにいたる経緯については甘寧と夢主の会話を聞いたとか、甘寧か仲間の兵がポロッと言っちゃうとかね。いずれにせよ本人から直接聞くわけではない。

あれ、じゃあ俺あいつの親の仇?あれ、俺ひょっとしてあいつに恨まれてたりする?あれ、じゃあ仲良くなった気がしてたのは気のせい?寧ろあれか?仲良くなって隙が出来たところをサクッと殺るつもりだったとか?あれ?……あれ?

自分が恨まれてるかもしれないと気付いて、別に嫌われても構わない筈なのにショックを受けてる自分に困惑する凌統。いつも通りに接してきた夢主に対して、疑心暗鬼から心にもないことを言ってしまう。仲良くなって油断させようとでもしてたのか残念だったな騙されねぇよ。矢継ぎ早に言われた夢主「あ、誰かから聞いたんだー」ぐらいの軽い反応。だけど今更疑われたのにはちょっとショックを受ける。仲良くなれたと思ってたのになー。
夢主は甘寧の下で長いので、基本の思考回路は甘寧とほぼ同じ。敵は倒す、味方は守る。そこに味方=家族みたいな概念が夢主個人にはあるので、家族に嫌われたら無自覚に結構なダメージを食らう。この時もしかり。新しい兄貴ができたみたいに思っていたので、実は結構ぐっさり来てる。

微妙な空気のまま迎える濡須口の戦い。はい、和解フラグです。
凌統苦戦の所に敵兵を薙払いながら遼来々レベルの勢いで駆け込んでくる甘寧と夢主。怖い。全力疾走なので二人揃って鬼の形相。本当に怖い。救援は嬉しいけど内心複雑な凌統はまた素直じゃない台詞を吐いちゃって、だけども甘寧と共に「大事な兄貴守ろうとして何が悪い!」と鬼の形相のまま言い切った夢主にいろんな悩みが吹っ飛ばされる。
離れていた間いつ謝ろうかとか嫌われたんじゃないかとか本当はもっと仲良くしたいんだよ仲良くなりたかったんだよ云々悩んでたのがアホらしくなる凌統。いや、こいつらがアホなんだ俺普通、とか考える。

こんな感じで戦後の宴でちゃんと謝罪して和解して、はいめでたしめでたし、みたいなお話。

夢主の凌統への感情が本当に兄貴を慕うようなものなのか、凌統個人への特別なものなのかは分からない。友情話というか家族的な夢になるかも。