≫鮑三娘の大哥様が関兄弟を愛でる


事の発端は鮑ちゃんの実家から届いた一通のお手紙。時事の挨拶から始まり近況報告を綴っていた他愛ない連絡便の、最後の最後に綴られていた核弾頭。それを読んだ鮑ちゃんは顔面蒼白。急激に表情を変えていく鮑三娘に周囲がにわかにどよめき、たまたま近くにいた関索が「三娘?」と声をかけると、冷や汗までかきはじめた鮑ちゃんが、がしぃっ!と関索の肩を掴み一言。

「関索!あたしと一緒に逃げて!!」
「…は?え、一体どうしたんだい?」
「詳しい話は後!とにかく今は一刻も早く兄上様から身を隠せるところを探、」



「――――私から、なんですって?」



「あ、兄上…様…」
「ええ、貴方の兄上ですよ私の可愛い三小妹。で、先程聞こえた私から身を隠すだのなんだのという台詞は一体なんの話なのでしょうね?」
「や、ややややだなぁ兄上様、ああああたしが、まさか、兄上様が此処に来るっていうから逃げようだなんて、そんな、まさか、あは、あはははははは…」
「そうですよねぇ、貴女が私から逃げようと思うだなんて……まして逃げ切れるだなんて、思っているはずが有り得ませんよねぇ」
「(笑顔怖い怖い怖い超怖い!!)そそそそうだって!あの、さっきのはちょっと、久々だし隠れて脅かしてやろうかなぁーとか、考えてたりしただけだって!」
「まぁ貴女のそんな愚かな企ても全て見越した上で直前に連絡がいくようにしたんですけどね」
「!!!」
「おやぁ…?どうしたんですか私の可愛い三小妹。そんなに泣いては貴女の可愛いお顔を作り上げているお化粧が台無しですよ?」
「……う、うわぁぁぁあああん!なんでよりによって兄上様を様子見に寄越すのよお父様の馬鹿ああああああ!!」

鮑三娘とよく似た明るい色の頭髪に、鮑三娘とは反対に穏やかで淑やかな空気をまとった一人の男性。諸葛亮や劉禅様とよく似た柔らかな物腰で鮑三娘に笑顔を向けるその人物は、鮑三娘の実の兄その人でありました。手紙に書かれていたのは鮑ちゃんが家族内で最も苦手とする兄が、蜀にお前の様子見に行きますよ、という報せだったのです。鮑ちゃん涙目。
しかもこの後この兄上様はちゃっかり劉備様にも諸葛亮にも気に入られて、武将として蜀に居座ることとなってしまうのです。鮑ちゃんこの時点で精神的にオワタ状態。なまじ普段は穏やかで懐の広い好青年だから性質が悪い。関策に「いいお兄さんだね」とか言われてもう笑うしかない。エエホントニスバラシイアニウエサマデスヨー(血涙)。

鮑ちゃんが何故この兄上を苦手としているのか。まぁ腹黒くて色んなことに口煩いからというのもあるのですが、このお兄さん根底が重度のシスコンで過保護なんです。多少方向性の間違った。鮑ちゃんの婿選びもこの兄上様の入れ知恵だったり。「貴女一人御せない貧弱な男に嫁入りなど言語道断ですよ^^」っていう。その鮑ちゃん自身もその兄上様の仕込みによって並大抵の男では倒せなくなってるんですけどね。

そんな過保護になってしまったのは、鮑ちゃんの幼少期、自分の不注意から幼い鮑ちゃんに怪我を負わせてしまったことがあったから。命に別状はなかったもののそれを酷く悔いた兄上様は、元々自律精神の強い厳しい人だったのに拍車をかけて厳しい人になっちゃったんですね。
怪我したのは鮑ちゃん自身の不注意というか「危ないからやっちゃだめ」って言われてたことを子供の好奇心故にやっちゃったみたいなものなのですが、傍にいた兄上様はそれを「自分がちゃんと見てなかったからだ」と悔いているんです。

だから鮑ちゃんもちまちま反抗はしつつも最終的には兄上様に逆らえない。根底にあるのが自分への愛情だとわかっているから。反抗期の息子と動じない母親みたいな関係の兄妹。
妹の婿兄弟だからと関兄弟を愛でまくる兄上様にもやっとしたりね。兄上様はそんなこともお見通しで絶妙のタイミングで鮑ちゃんに飴を与えてくるのです。飴だけじゃないけど鞭だけでもない。そんな兄上様のお話。

ちなみに落ちを考えるなら銀屏ちゃん。
くっついたら兄上様なのに弟になるという矛盾。