無造作に広がった髪がまるでライオンみたいだと思った。うねる髪も手を加えず放置している適当さも、同じなのにうちのワカメと印象はまるで違う。何故だ。
まじまじと髪を眺めると、べったりとした人工的な黒が髪の毛一本一本に張り付いている。なるほど黒染めしたらしい。大きな欠伸を隠しもせず空を仰ぐ自然体には、とてもじゃないが似つかわしくない事実だった。

「なんね」

涙を滲ませた目尻を擦り、すっと俺を見下ろした。正直話すのはこれが初めてだ。なのにこの千歳千里という男は、まるで長年連れ添ったチームメイトに話しかけるような口をきく。フランクさに逆に違和感を覚えるが、あくまでも顔には出さない。

「お揃いじゃと思たきに」
「なんが」
「髪」
「かみ?」

自分の髪を一房触り、そして俺とじろじろ見比べて、「あ」とぽかりと口を開ける。

「染めとうばってんが、俺ぁ銀髪やなかよ」
「あー」

会話は予想外の方向に進もうとしているらしい。そもそも赤也のことを話に出すのを忘れていた時点で失敗である。だが、恐ろしく見切り発車な会話はもう既に始まってしまっている。俺は無表情なままで、千歳は図体に到底似合わないおおらかな笑みを浮かべていた。緩いのう。
そして今度は千歳から疑問を浴びせられた。

「なしてそげな髪にしたとや」
「気分転換じゃ」
「嘘たい」
「プリッ」
「なんねそれ」

千歳はくすくす笑う。

「そげんして何もかも隠しとうと?」

へらりとした笑みに混ぜられた言葉。思わず反応が遅れた。

「何の話じゃ」
「髪ん色で、なんを隠しとうとかね」

じろりと目を向けるも、千歳は表情を全く変えない。どこまで本気かさっぱり分からなかった。それと同時に、千歳は言及もしない。ただ俺から視線を外して、黙って目の前で行われる試合を眺めている。

「せやったら、なしておまんは黒に染めた」

ちらちらとボールを追って動く瞳はゆっくりとその速度を小さくし、やがて止まる。試合を見始めたばかりなのに、千歳はすぐにそれをやめた。今は高校生の試合だ。ふう、と吐かれた溜め息と共に「つまんなか」とぽろっと漏らした千歳の目は、まるでゴミを見るかのようだった。この男の場合なら、まだゴミの方が価値があるかもしれない。

「けじめたい」

千歳はぐいっと伸びをして、半ば独り言のように呟いた。あまりにも自然で、集中していないと聞き逃していた。
少しだけ、目を見開く。千歳には感づかれない程度には。何にも捕らわれないような男に、髪を染める正当な理由が存在したことに驚いた。千歳は黒染めによって、過去の自分との区切りをつけたらしい。過去自体にはいささかの興味も湧かないが、その事実だけで満足した。目的はどうであれ、俺達は自分を塗り潰して、他者には見えないようにした。
俺達は少しだけ似ているのかもしれない。
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