狂ってる。
まるで呪詛のように延々と頭の中に語り掛けてくる相手に、僕はシンプルにそう判断を下した。
狂ってるよ、アイツ。
誰かは分かっていた。実際に顔だって見てる。狂気をはらんだ笑顔を張り付けた、僕らイマジンの指令塔。邪魔な僕らを消そうとしてる敵だ。
今ならリュウタの気持ちがよく分かる。こんな状況で眠れるはずがない。
うるさいよ。ねぇ、うるさい。
頭痛いし、こっちまで狂いそうだ。

そうした攻防を繰り広げた結果、僕の精神は一瞬だけどぽきりと折れた。それを狙っていたのだろう。その瞬間に、闇はナカに入り込み、一気に僕の体の支配を奪っていった。







まず最初に、良太郎を気絶させて憑依した。彼は相手が僕だということがあって完璧に油断していたから簡単だった。それは僕じゃなくても一緒か。
考えて、すぐに理解した。彼に憑依したのは、先輩たちからの抵抗を最小限に抑えるためだ。
なんて狡猾。
違うよね、感心してる場合じゃない。
出なきゃ。支配から逃れなきゃ。こんなの嫌だ。
――無駄だから。

頭に響く嘲笑。怒りがふつふつとこみ上げる。あんな奴に思い通りにさせる訳にはいかないのに。現実は無情なもので、僕の体は食堂車に乗り込んでいた。

まず最初に、先輩を殺した。その次にキンちゃん、リュウタ。そして、人間のナオミちゃんまで手を掛けた。僕の力から作った僕自身の武器で。彼らを、仲間を。殺してしまったんだ。

『……泣い、て…の?』
泣いちゃダメだよ、カメちゃん。
泣くに決まってるじゃない。お前殺して、残ったものは死体じゃないんだ。血なんか出ないよ。だってイマジンなんだから!
砂となって消えてしまったんだ。
どうしよう。どうしたらいいんだ。僕は、僕は。



「う、ら……?」



床に広がった砂、そして動かなくなったナオミちゃんを見下ろしていると、最も耳にしたくなかった声が聞こえた。

「名前、さん」

彼女に僕はどう見えただろう。白い砂と赤い血が飛び散った室内で、涙を流しながら立つ僕を。
音がなかった。電車が揺れる音すらも遮断して。
名前さんの、僕を責めるような言葉を聞いてしまったら、みんなを殺してそれでも保っていた精神の糸がぶつりと完璧に途切れてしまう。
そうは言っても、視界は良好だった。彼女の戸惑った顔がまじまじと見える。
不安げにしているのは、砂が元はなんだったか考えているから。
ナオミちゃんの死因が目に見えて分かるから。
理解しているけど、したくないから。
ぱたぱたとまた幾筋も涙がこぼれた。
そして、手がぐっとロッドを握り直す感触を、僕は確かに感じた。
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