もしも僕が消えてしまうなら、笑ってさよならしてほしい。
そんな綺麗事、僕は言わない。





僕たちと良太郎の時間は違う。もしかしたら僕たちの時間はもう失くなりかけているのかもしれないし、単に僕たち自身がこの時間に繋がれなくなっただけかもしれない。それでも僕たちがこの時間から消え失せてしまうのは事実だ。元々ありえない存在だから、痕跡も残らず、特異点である良太郎以外の誰の記憶の中にも残らない。
それは悲しいことなのか、そう聞かれたら、多分以前の僕ならNoと答えていただろう。僕は元々この時間と関係ないから、と。
でも、今の僕なら答えは変わる?
今の僕なら、どう答える?

「答えはYesかな」

だってウラはみんなが大好きだもんね。屈託無い笑みで名前は答えた。みんなと会えなくなるなら、それはとてもつまらなくてどこか寂しいことだ。何故ならそう思えるように彼らが僕を変えてしまったから。
他人を騙して、たった一人で生きてきた、この僕をゆっくりと穏やかに変えていった。彼らのおかげで作りものじゃない感情が自然に出るようになった。怒ったり、笑ったり、泣いたことはないけれど、悲しいと、素直に思えるようになった。起こったことに対する自分の感情に名前を付けて、それを噛みしめる。昔はあれこれ理由を付けてその感情たちを何処かへ捨てていた。当時の自分からしてみれば今の僕は不可解で、多分馬鹿な人間の部類に入っているだろう。でも、後悔はしていない。手に入れたものは僕にとってかけがえのないもの。一度は失いかけた、ヒトにとって大切なものなのだから。

「…そうだね。一人はつまらないよ」

あんまり認めたくもないんだけどね。苦笑しながらも伝えると、やっぱり彼女は嬉しそうだった。
なんでかな。なんで名前が笑うとこんなに胸が暖かくなるんだろう。その笑顔は色鮮やかに映り、焼き付き、最後には心をも暖かい何かで満たす。ほんのちょっぴりの羨望をもたらしながら。
それは不思議なことで、とても素敵なことだ。皆を幸せにする。だから守りたいと思うのだろう。僕は名前を何からも傷付けるつもりはない。運命すら感じる、僕は君のためにやってきたのだと。そう、これも僕の変化。だからこそ、僕はこの時間に来たことを感謝する。

大事なものを見つけたんだ。死んでも失くしたくないものを、僕はいくつも見つけた。

ごめんね。大好き。愛してる。浮かんでは消えていく、君のための言葉。君の中からいなくなってしまう僕を許して。何も残さない僕を許して。

「だから、忘れる訳ないじゃん。ウラとかみんなをさ」
「…だといいけど」

名前はいつもそう言う。本気で言っているのか、それとも僕を励まそうとしているのかは分からない。けど、未来は決まっていて、僕たちは既にそれを受け入れていた。




いつか僕は君の前から消えてしまう。その時君の傍にいれるなら、心配いらないなんて笑わないで。離れたくないと縋って、嘆いて、僕のために泣いてほしい。そんな君を抱き締めて消えてしまえるのなら、それはそれでいいかもしれないね。




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