全てを永久の闇が包み込む新月。見知った土地も、灯りがなければ一寸先も見えやしない。頼るのは己の感覚と、手元の灯りのみ。そんな日に見回り組に当たるとは不運だと原田は内心うんざりした。片手は提灯で塞がっており、槍での先手必勝も適わない。何より新撰組を狙う連中からは、手元の灯りは狙ってくださいと言ってるようなものだ。人斬りには絶好の条件が揃っている。必然的に緊張感も高まる。隊士の雰囲気も少しばかり違っていた。
 常に迫る死への恐怖。
 傍にいる娘に体験させてやりたいものではなかったが、これも彼女が志願したことだ。彼女の強い意志を折ってまで断る術を、原田を含め新撰組の誰も持ってはいなかった。

「今夜は星がよく見えますね」
「ああ、新月だからな」

 永倉とは半刻前に一旦別れ、再度落ち合うことになっている。待ち合わせ場所にて、彼が戻ってくるまで暇を持て余していた原田は、少女の言葉に釣られて空へと視線を移した。
 宝石のように瞬く数え切れないほどの星々は、漆黒の闇によく映える。煌びやかな様に思わず目を奪われた。
 こうしていると、星ばかりを眺める娘のことを思い出す。朔夜という、未来から来た経歴を持つとんでもない女だ。
 初めそれを聞いた時は幹部皆で大笑いをした。頭が可笑しいか、間者の狂言か。何にせよ聞いたことのない出自だったので、腹を抱えて笑ったのは記憶に新しい。
 今ではすっかり新撰組に馴染んではいるが、彼女が来た時はちょっとした騒ぎになった。