彼との出会い

「世良様、お待ちしておりました」



車を降りた先は、まるでドラマに出てくるような高級料亭でした。



ここ知ってる。テレビで観た事ある。

高級料亭だ。

叔父と姪が食事するってこういう場所?

今日の格好で大丈夫?


焦っている私の心情いざ知らず。

叔父は案内されるがまま、スタスタと歩いて行ってしまう。


進んだ奥の奥。

庭園に囲まれた、離れ。


案内されるがまま部屋に入ると、下座に座る知らない男性が一人。


「待たせたな」

「いえ」


叔父は当然の様に上座に座る。

私はその隣に促され。

私の向かい側に、見知らぬ人。


座って間も無く、お酒と私の烏龍茶、そして先付けが出される。


「まぁ、とりあえず」


叔父の音頭で乾杯し、烏龍茶を飲みながら目の前の男を観察する。


細面の綺麗めな顔立ち。

明るい髪色。

うん、ちょっとチャラそう。

一見チンピラ紛いの人に見えるけれど、着ているスーツの襟に本部の代紋。

それなりの地位に居る、のかな。


「お前にコイツに会わせたかったんだ」

「え、私?そうなの?」

「ああ。雪緒、姪の一花だ」


ユキオ、と呼ばれた男の人は、私に向かい直して頭を下げる。


「世良会長の元でお世話になってる、前田雪緒です」

「は、初めまして。姪の風間一花と申します」


慌てて畏まって頭を下げると、隣で叔父が小さく笑った。


「雪緒は今、他の直系組織に居るんだが、近いうちに風間組に移る事になっていてな」

「あ、え、そうなんですか?」

「ええ。これからお世話になります、お嬢」


再び深々と頭を下げる前田さん。

聞けば十年近く前から毛利とは渡世の兄弟で、仕事柄たまに風間組に出入りしているとの事。

私は全く知らなかったけれど、父さんや柏木さんにも勿論面識があるみたい。


「それは分かったんだけど、なんで今私に紹介なの?」

「実はな、毛利と一緒に、雪緒もお前の目付け役にする事にした」

「へぇ。……えっ?」


そもそも毛利が未だに御目付け役と言うか、お世話係と言うか、兎も角その話すら有効だった事に驚いていたと言うのに、それが更に増えると言う。


「いや、あの、叔父様?私そろそろ成人するような年齢で、そもそも御目付け役が必要になる様な事にならないと思うんですけど……」

「なんだ、嫌なのか?」

「嫌とかそういう事じゃ無くて、えーと、お世話して貰う歳じゃないと言いますか……何かあっても一応護身くらいは習ってきたし、」

「お前な。極道者の娘だと言う自覚が足りないんじゃないか?……敵対勢力にとって女子供は年齢関係無く弱みを握るには格好の的だ。昔拐われた事、忘れた訳じゃないだろうな」

「あ、うう……」

「増してや、俺の、会長の姪でもあるんだぞ。お前には申し訳無いが、今後も何かある可能性は十分に有り得るんだ」



関東一円を束ねる大組織、東城会の三代目会長の世良勝が叔父。

そして、昔は東城会イチのヒットマン、今や本部の重役である風間新太郎が父。


まぁ、言われてみれば叔父の言う通りである。


「一花、返事は?」

「……前田さん、よろしくお願いします」

「ええ、任せて下さい」

「まぁ、基本は好きに生活すれば良い。周りに怪しい動きがあれば、毛利と雪緒が対処する」

「は、はぁ……」


今後が急に不安になって色々と考えあぐねていると、叔父は前田さんに、そう言えば、と問い掛けた。


「雪緒、例の物は預かって来たか?」

「ええ、こちらに」


そう言って前田さんは、座っている座椅子の後ろから紙袋を取り出して、叔父に渡した。

叔父は受け取った袋の中から箱を取り出して、それを此方に差出してきた。


「へ?私?」

「ああ。開けて見てみろ」


特に包装されている訳でもない、長方形の化粧箱。

言われた通りに開けてみると、中に入っていたのは30センチに満たないくらいの扇子が入っていた。

そっと開くと、黒地に金と白で落花流水が描かれた舞扇子。

一目見ただけでわかる絢爛さ。


「わ、綺麗……!」

「俺からの遅れた卒業祝い、だな。肌身離さずに持ち歩いてくれ」

「ありがとう!……肌身離さずに?」

「……ま、御守り代わりってやつだ」


踊りをやっている訳でも無いのに、肌身離さず持ち歩け、だなんて。

意味が良く分からなかったけれど、御守り代わりなんて言われてしまっては、とりあえず言う通りにしておいた方が良さそうな気がした。


プレゼントを受け取った後は、留学中の話や最近の事を話ながら、出された料理をゆっくりと味わう時間。

料理はどれも綺麗な盛り付けで、味も美味しくて。

お凌ぎ、お椀、向付、八寸、焼き物、炊き合わせ、ご飯までしっかり食べて、最後の水菓子まで堪能して、お腹も心も満たされた所で、今日はお開き。


前田さんとはお店の前で別れて、私は家まで送ってもらった。


叔父と別れて家に入ると、父さんはまだ帰って来ていないようだった。


今日も帰りが遅くなってしまったし、買い物袋からバスグッズと基礎化粧品だけ引っ張り出して、さっさとお風呂に入る事にする。

結局、スーツケースと今日の買い物の荷解きは明日に回す事にした。


父さんの帰りを待とうと思ったけれど、買って貰ったシャンプーの匂いと使い心地が良くて。


メモに先に休む事を書いて、湯冷めしないうちに幸せな気分で布団に入った。



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