両手いっぱいの

まだ真新しい車の、窓から見える景色は高速で通り過ぎる。

叔父が運転する車は、新宿からどんどん離れていく。


「あの、叔父様、どこに行くの?」

「そうだな、買い物に行こう、一花」

「買い物?」

「ああ。帰ってきて色々入用だろ?」

「まあ、そうだけど。じゃあ、銀行に……」

「おい、金なら心配するなよ。お前に払わせると思うか?……それに、これは俺がしたくてやってるんだからな」

「で、でも……」

「あ?」

「あ、はい。ありがとうございます」


半ば脅しに近い気もするけれど、叔父の優しさに甘えるしかないようです。


漸く着いた先はショッピングモール。


ここ、実は来てみたかったんだよね。


先ずは服飾関係から。

端から端まで見て歩く。

気になる服をチラッと見ただけで店員さんにクレジットカードを渡しそうになる叔父を抑えつつ、それぞれの店で色々と見繕って行く。

遠慮すると頭上から極道仕込みの凄みを感じる羽目になる事を学習した。

アウター、トップス、ボトムス、ワンピース、スーツから部屋着まで、数着どころか、かなりの数を購入して。

行く先々のお店の、一番大きなショップバッグが二つか三つずつ。

合計すると、最早何袋あるかちょっと分からない。

暫く洗濯しなくても良いくらいだし、なんなら先の季節まで持ちそう、なんて思うくらいの量。


それから、靴もスニーカーからパンプスまで一通り。

トート、ショルダーのバッグ関係。

購入した荷物は何時の間にか着いて来ていた叔父の部下が後ろの方で抱えてくれていた。


後は、ドラッグストアにも寄って。

シャンプーやヘアケア、基礎化粧品、歯ブラシなどなど。


一日に、映画やドラマのみたいにこんなに沢山買い物したのは初めてで、内心オロオロ。

とは言え、自分が生まれた環境の所為なのか、小さい頃からクリスマスとかイベントの時期はプレゼントもお年玉も何もかもが大量だった。

留学中もステイ先に大量にプレゼントが届いたし。


「今更だけど、こんなに沢山……なんか申し訳ない……」

「遠慮するなって言った筈だ。それより、他に買うものは無いのか?」

「思い付く物から考えもしなかった物まで遠慮なく買って頂きましたです!」

「そうか?まぁ、足りなかったら都度言えよ」

「……はーい」


お店屋さん開けるよ、これ。

……とっても、恵まれている。


「さぁ、そろそろ行くか」

「うん」


駐車場で再び叔父の車に乗り込む時、大量の荷物を抱えた部下の人が近くに見えた。

あ、スーツさん(仮)だ。

もう一人はオールバックの人。

目が合って、感謝の意味を込めて頭を下げると小さく手を降ってくれた。


……かわいいって言ったら怒るかな?



自宅に着いた時は既に午後七時を回る頃。

お付の部下の方々に買った物を中まで運んでもらったので、留学先でお土産に買ったお菓子をお礼に渡すと、スーツさん(仮)とオールバックさんはニコニコとしていた。

強面に似合わず、二人共甘い物が大好きだそうで。

その後車で待つ叔父に声をかけると、もう一度車に乗るように促された。


「お前、まだ時間あるか?」

「うん、特に予定はないです」

「そうか。なら晩飯も一緒に行こう」

「わーい!喜んで!」

「良し。その前にちょっと野暮用を済ませて来る。風間さんの所で待っていてくれないか?」

「はーい。わかりました」


叔父とは此処で一度別れて、お付の二人に送ってもらい、神室町の事務所へ向かう。


事務所に入ると、真っ先に出迎えてくれたのは柏木さん。


「お嬢、お帰り」

「柏木さん、ただいま!父さん居る?」

「ああ、奥に居る」


その言葉を聞いて組長室に向かう。

ノックをすると、扉が開く。


「あ、毛利だ」

「お帰りなさい、お嬢」

「うん、ただいま!」


そのまま部屋に入れば、椅子に座った父の姿。


「帰ったか」

「ただいま、父さん」


世良の叔父様に会いに行った事、その後買い物に行って大量に買い物して来た事を伝えると、その事を父さんは分かっていたようだった。


「昼頃にあいつからお前を連れ出すと電話があったんだ」

「あ、そうだったの?」

「買い物の役目は任せてほしいと言われてな」

「ふむ、そっか」


足の悪い父さんでは長時間の買い物は一緒に行く事が困難だと思ったのかな。

全て一人でやるつもりで居たけれど、移動や荷物の運びなど、色々な点を考えても、正直、叔父の申し出はとても有難かった。

あ、そうだ。


「あのね、叔父様から夕飯もお誘い頂いてるの。用事を終わらせたら来るから此処で待ってろって言われてて」

「そうか。なら、それまで休んだら良い」

「はーい!」



毛利が淹れてくれたお茶を飲みつつ、父さんと話をしていると、組員さんに迎えが来たと呼ばれた。

父さんと一緒に事務所から出ると、天下一通りの看板近くに寄せた黒塗りの車発見。

とっても、目立つなぁ。

その前に立つ、叔父の姿。

うん、目立つなぁ。


「三代目、世話になります」

「よして下さい、風間さん。それより、風間さんも一緒にどうです?」

「そうだよ、父さんも来たら良いのに」

「そうしたい所だが……悪いな、この後は色々と予定があるんだ」

「そうですか」

「折角だが、すまねぇな」

「いや、またの機会に。帰りは家まで送りますんで」

「ああ、頼む。一花、迷惑かけるんじゃねぇぞ」

「はぁい。行ってきます」


叔父に次いで車に乗り込む。

うわぁ。ふかふかだ。


父さんに見送られて、車は走り出す。

今日は金曜日。

只今二十時過ぎ。

窓の外に見える人の波は、更に増していた。



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