目的地多数


三つの湯呑みから立つ香りと湯気。

お茶を飲みながら、父さんや毛利と今後の予定について話し合う。

先ずは手続き関係を済ませて、その後日本の生活で必要なものを揃える事にした。

先ずは、タンスの肥やしになってしまっている着ていない服、着られない服は処分して新しい物を買い足したりしないと。

あと、昨日は父さんのシャンプーを借りたけれど、メンズ物は髪質に合わないみたい。

歯ブラシも携帯用しかないし、新しい物を買わないと。

基礎化粧品も荷物になると思って向こうでほとんど使い切ってきた。

それから、それから。

買うものいっぱい。

手続き関係もいっぱい。

やる事いっぱいだ。


先ずは父さんと、一緒に行くといって聞かなかった毛利を送り出して、出掛ける準備に取り掛かる。


キャリーに押し込まれた物達の中から適当に見繕ったワンピースを着て、軽くメイクをする。

バッグの中を確認して、いざ出発。

……と、思ったら家の電話が鳴った。


「はい、風間です」

「ああ、居たな、一花。俺だ」

「あ!叔父様!」


慌てて受話器を取ると、叔父の声。


「お前な、留学から帰ってきて俺に挨拶ひとつ無いとはどういう事だ?」

「あー……いや、今夜あたりかけようかと……ごめんなさい」

「いや、いい。今日は空いてるのか?」

「この後役所に行ったりするけど、その後なら」

「なら、終わったら来い」

「うん、わかりました」

「じゃあ、後でな」


手短な会話で終了。

……これは急がねばなるまい。

買い物は後回しかな。


留学先で買った叔父への手土産を引っ掴んで、少し早歩きで駅まで行って、電車に乗って。


先ずは区役所に行っていくつか手続きをする。

その後また移動して、今度は免許の書き換え。


終えて只今十四時過ぎ。

急いで叔父の所へ行かねば。


タクシーを止めて行先を告げる。


混み合う都会の街並みを通り過ぎ、そろそろ目的地。

少し離れた場所へつけてもらって、目指すは久しぶりの場所。


立派な門構え。

広い敷地に、日本家屋風の大きな建物。


ここは、東城会の本部。


門を潜り、本部の入口までのそこそこに長い道を歩いて行くと、入口の付近に立つ、黒スーツの如何にも風な男性がツカツカと歩いてくる。


「おう、待てや嬢ちゃん。此処が何処か分かって入って来たのか?」

「へ?……あ、はい」

「分かってるんだったら尚更、嬢ちゃんみたいなのがこんな所来ちゃいかんだろ」

「いや、あの、約束があるんですけど」

「約束だぁ?ここは東城会の本部だぞ。何言ってんだ?」


私の言葉に訝しげな目で此方を睨むスーツさん。

あ、本部付きの人達はみんなスーツだ。

ほかの呼び方のがいいかなぁ。

とりあえずスーツさん(仮)にしよ。


兎に角、約束があると言ってもそんな訳あるかと相手にしてもらえず、叔父の名前を出そうにも取り付くしまもない。

どうしようかと困っていると、スーツさん(仮)の後ろから声がした。


「俺の客だ」

「叔父様!」

「あぁ?……叔父様だぁ?……んなっ!?さ、三代目!!さ、三代目のお客さんで……?」

「ああ、まあな。……こっちだ、一花」

「あ、はーい」


叔父様の元へ行くと、大きな声で謝罪するスーツさん(仮)の言葉が後ろから飛んできた。

スーツさん(仮)に軽く会釈をして、歩き出した叔父様に着いていく。


すれ違う本部の構成員の人達に好奇の目で見られつつ、そのまま会長室に入った。


「悪かったな。話しておくべきだった」

「ううん、いいの。……昨日帰国しました。ただいまです、世良の叔父様」

「ああ。おかえり、一花」


ダークグレーのスーツが似合う、ダンディズム。

東城会を束ねる三代目会長は、正真正銘、血の繋がった叔父。


「はい、これ、お土産どうぞ」

「ああ、ありがとな。……昨日の昼間、夕方に帰国すると風間さんから聞いていてな。夜にでも電話が来るだろうと待っていたんだが……」

「いやそれは、えーとですね、あー、今日にでも、って」

「可愛い姪っ子の頭には父親は兎も角、組員達は居ても、叔父様は居なかったようだな?一花?」

「うひぃぃ……!ごめんなさい!」

「フッ……冗談だ」


ニヤリと笑って、人の悪そうな顔。

人の悪そうなって言うか、極道者だし、まぁ、悪い人だけど。

あまり詳しくは聞かないけど、詰めたり埋めたりしてそうだよね。色々と。

極道の大組織の一番偉い人だもんね。

うんうん、もう考えないようにしよう。


「もう役所関係の手続きは終わったのか?」

「うん、そういうのは全部終わらせてきた。まだやる事は沢山あるけど」

「そうか。……さ、出掛けるぞ」

「へ?何処に?」

「まぁ、話は車の中でな」


そう言って入ったばかりの会長室を出る。


玄関ホールにはまだスーツさん(仮)が居て、こちらに気付くと深々と頭を下げていた。

門の前には映画などで見る黒塗りの車……では無く、高級そうな白いセダン。

促されるまま、助手席に座る。

運転席には叔父様。




車はゆっくりと、発進した。







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