ただいま

暫く父さんや柏木さんと話してから組長室から出ると、不思議そうな顔でこちらを見つめる数人。

その中に、来た時には居なかった良く知る顔。


「お帰りなさい、一花さん」

「毛利、久しぶり!ただいま!」


幼い頃のお世話係だった毛利泰智。

毛利とも、一年ぶりの再会。


「長旅お疲れ様でした」

「うん、ありがとう」


去年の帰国時に若頭補佐になったと聞いた。

柏木さんの下について色々頑張っているみたい。

そんな中、このやり取りにも不思議そうな顔で見ている組員達。

その内の一人が毛利に質問してきた。

うんうん、風間組にはちょっと珍しいパンチパーマ君だ。


「あの、毛利さん、この人は……?」

「ああ。この方は風間組長のお嬢さんの一花さんだ。海外留学していて、今日帰国されたんだ」

「んな!お、お嬢でしたか!長旅ご苦労様です!」

「ご苦労様です!!」
「ご苦労様でぇす!」
「ご、ご苦労様です!!」
「ごきゅ、ご苦労様です!」
「ご苦労様ですっ!」


私の正体が分かった途端に幾つも幾つも重なる労いの声。

そんなに萎縮しなくても、父さんが偉いのであって、私はただの娘なんだけど。

でも。極道は時たま例外あれど、完全縦社会。

組長の、それも本家の大幹部の娘ともなれば組員にとっては下手に出る対象に成り得るのだ。

それは小さい頃から、ちゃんと知っているので、大人しくしておく。


「ありがとうございます。皆さんもお疲れ様です。あ、良かったらこれ、皆さんでどうぞ」


先程乗り換えで降りた駅で購入した洋菓子を出せば「ご馳走様です!」と「ありがとうございます!」の声が重なった。


その後、組長室から出て来た父さんの提案で、柏木さんと毛利を誘って久しぶりの「韓来」で夕食。

何時でも行ける「韓来」じゃなく、他の店もあるぞ、なんて父さんに言われて。

日本食も恋しいな、なんて少し悩んだけれど。
それでも柏木さんの顔を見ていると、冷麺……食べたくなっちゃったんだよねぇ。


罪な男ね、柏木さん。



乾杯から始まって、タン塩の焼き方で毛利と喧嘩したら柏木さんに怒られて、その後はカルビやハラミ、ホルモンは良くよく焼いて。
海鮮、サラダ、キムチも食べて、シメはちゃんと冷麺にして。

お腹いっぱいになった後は、柏木さんと毛利とまたねって別れて、初めましての組員さんの運転で久しぶりの我が家。



荷解きは明日にして、お風呂にゆっくり入って。

温かいお茶と一緒に、父さんと久しぶりの親子の語らい。


去年の夏に最後に会ってからの一年間、何をして来たか、どんな事があったか。

学校の事、友達の事、日々の生活。

兎に角、沢山の話。


「……ね、ちょっと不思議でしょ?」

「そうだな、日本に居たらまず無ぇだろうな」

「うん、そうかも!……ねぇ、父さんは?この一年で変わった事とか、無いの?」

「ん、俺か?……俺はまぁ、相変わらずだ。何かあればお前と手紙や電話で話すからな」

「そっか。……ねぇ、『ひまわり』の皆は元気かな?」

「俺も最近は行ってねぇが……この前電話で話した時は、皆変わりないと施設長が言ってたな。時間がある時に行ってみたらどうだ」

「そっか。うん、そうだね」


週末にでも、行ってみようかな。


話を聞いていると、父さんは相変わらず忙しいようで。

ちょっとだけ寂しい気もするけれど。

でも、私だって、もう小さくない。

手放しで寂しがることはしない。

色々な手続きもまだ残ってるし、やらないといけない事もある。

連絡したい人、会いたい人も沢山いて、それはそれは嬉しい悩みが尽きない。


それから一時間程話し込んで、それでもまだまだ、もっと話したかったけれど、長時間の空の旅や時差のせいか、いよいよ眠さはピークに達してしまった。


「もう日本に帰って来たんだ。毎日すこしずつ、ゆっくり話せばいい」


そんな父さんの声に返事をして、自分の部屋のベッド辿り着いてからの記憶は既にあやふやで、気が付いたら朝だった。



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