帰って来た彼女

只今東京国際空港、羽田に着陸致しました

時刻は午後4時25分でございます

これより、ゲート112番まで移動して参ります……




機体が着陸し、アテンダントのアナウンス。


十三時間越え、長時間の空の旅はこれで何度目だったろう。



本日、2005年9月29日木曜日。



三年半の海外留学生活を終えて、ただいま日本。


飛行機を降りて、コンベアの前で荷物を待つ。

コンベアで運ばれて来たお気に入りのスーツケースは結構ボロボロ。

先に日本に送った荷物もいくつかあった。

それでも、大きいサイズのスーツケースは三年半分の思い出でいっぱい。


空港を出るまでがスムーズにいって、そのまま気分良く国際線ターミナル駅から電車に乗った。


途中、乗り換えをする為の駅でついつい購買欲がそそられて、既に大荷物な持ち物に数点、お土産が追加された。


増えた荷物と一緒に再び電車に揺られて二十分程。


大量の人の波に飲まれそうになりながら、新宿駅東口。

そのままケースを引いて歩く。

数分歩けば見えて来る、道路の反対側「神室町天下一通り」の看板。


「やっぱり変わらないなぁ」


留学中、長期休暇で何度か帰国したけれど、短い滞在でこの街に来る事は殆ど無かった。

懐かしい空気感に浸りつつ、目指す場所はただ一つ。


横断歩道を渡って、看板の下を通って。

人々の往来を避けようとした瞬間。


バキッ!ガツッ!と嫌な音が聞こえた。


「……へ?」


立ち止まって音がした先を恐る恐る振り向けば、ケースが傾いている。


嫌な予感がして、そっとスーツケースの足元を見ると、四隅にある筈の車輪が三箇所同時に壊れていた。


「えぇ…!う、嘘だぁ……!!」


これは、悲劇。

購入してから約四年年、使用年数は三年半。

そんなに酷使したつもりはないけれど、耐え切れなかったようだ。

それにしても三箇所も同時に壊れるものだろうか……。

兎に角、此処は道のど真ん中。
目指す父の事務所まであと少しの距離。

腕力はそこそこ有る方だけれど、目の前には自分の身長の半分近くある大きなスーツケース。

中身を含め小学校低学年の平均体重より重いであろうコレ。


「よっ……ぐぇ、重っ……」


しかし、持ち上げようにも上手く持ち上がらない。

無理やり引きずってみようと試みるも、辺りに嫌な音が響く。

さて、どうしたものか。




「大丈夫か?」


少しずつでもどうにか持ち上げて運ぼうかと思案していると、声を掛けられる。


振り向くと、そこには。


「か、柏木さん!」


風間組若頭の柏木さんだった。


「やっぱりお前だったか、一花」

「え、何でここに?……あ!あの、これの車輪が壊れちゃって……」

「そうだったのか。事務所の窓からお前の姿が見えたんだが、なかなかこっちに来ねぇから様子を見に来たって訳だ」

「流石柏木さん、救世主!」


デカくなってもまだまだガキだな、なんて笑いながら、柏木さんはケースを軽々と持ち上げて先を歩いていく。




「親父、お嬢を連れて来ました」


柏木さんの後に着いて事務所に入ると、知らない顔が何人も。

その間を通って組長室に入ると、


「ご苦労だったな、柏木」


窓際に佇む懐かしい姿。


「お帰り、一花」

「ただいま、父さん!」


構わず抱き着きに行くと、優しく受け止めてくれる。


前回会ったのは去年の夏休み。

最後の冬休みと春休みは帰国せず、向こうで過ごした。

卒業は四ヶ月前の五月末。

冬休み、春休み、卒業後の四ヶ月間も含め帰国しなかったのは、やり残しが無いように徹底してきたから。

父さんや皆に会いたかったけれど、将来の為に我慢した結果なのだ。



「長時間の移動で疲れたろう。それにしても大荷物だな」

「全部持ってこないとだったから。車輪が壊れちゃってどうしようかと思った……柏木さんが来てくれて助かったよ」

「柏木な、空港までの迎えも要らねぇと言われた挙句、お前がいつ帰って来るか分からなかったからな。一時間位前から、何度も外を見てたんだ。」

「わお!柏木さん……!」

「お、親父……!!」



久しぶりに会えた父と、柏木さん。

父の温かさと、若頭の顔に似合わない心配性が、嬉しかった。




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