内緒の話



朝起きたら、お父さんは居なかった。

誰も、居ない朝。

そんなの慣れっこ。


今日も、いつも通り家を出て。

学校に行って、いつも通り授業を受けて、終わったらお家に帰る。

一昨日の出来事なんて、まるで無かったみたいに。


「一花ちゃん、また明日ね」

「うん、また明日ね」


途中まで一緒だった友達と別れ道。

今日は習い事も無いし、友達と遊ぶ約束もしてないし、何をしようかな。

考えている間にとっくに家に着いて。


家の前に、毛利が居た。


「あれ?なんでお外にいるの?」

「ああ、お帰りなさい。お嬢」

「うん、ただいま」

「お嬢を待ってたんですよ」

「え?」

「さ、中に入りましょう」


なんでお外で待ってたんだろう?

よく分からないまま家に入る。


「お嬢、ランドセルをお預かりします。俺が部屋に置いて来ますから、手洗いうがいをしてきて下さい。その後お話があるので、一度お部屋に来てくれますか?」

「?……はーい」


色々気になったけど、先ずは言われた通りに洗面所に行く。

そのあと自分の部屋に入ると毛利は居なかった。

その代わり、お父さんが居た。


「え?あっ!お父さん!」

「おかえり、一花」

「ただいま!」


なんでお父さんがいるんだろう?
お仕事はどうしたの?

この時間には居ないお父さんが居る事。

疑問と嬉しい気持ちはぐるぐるしていた。


「あのな、一花。お前に会わせたい人がいる」

「会わせたい人?」


お父さんはベッドに座って、話を続けた。


「ああ。その前に一つ、今から父さんが言う事を誰にも言わねぇと約束してくれるか?」

「誰にも……?」

「そう、誰にもだ」

「……うん」



その後。
私はお父さんから堂島のおじちゃまに由美お姉ちゃんが攫われたこと。

彰お兄と一馬兄ぃが助けに行ったこと。

その後何が起こったか。

そして、記憶を失くした由美お姉ちゃんが居なくなったこと。

居なくなった後、由美お姉ちゃんが見つかってひまわりにいた事を聞いた。


「ねぇ、お父さん……本当に、一馬兄ぃが堂島のおじちゃまを殺しちゃったの?」

「……父さんも見た訳じゃない。ただ、状況としてはそうなっちまうかも知れねぇな」

「……そう、なの」


お父さんからその話を聞いても、どうしても納得出来なかった。


「一花……こんな話、お前にすべきじゃねぇんだが……事情が事情でな」

「ううん、いいの」

「すまねぇな。……さぁ、下に降りよう。待っている人がいる」

「はぁい」


お父さんとリビングに降りた。

そして、その先に居たのは、


「由美お姉ちゃん!」

「あ、あの……」


不安そうな声り

お父さんが、私に会わせたい人。

記憶をなくした由美お姉ちゃんの話。

もしかして、という予感。


「由美の事はさっき話した通りだ。そこで、由美をうちで預かる事にした。いいか?一花」

「……もちろん!」


ソファに座る由美お姉ちゃんに近づいていくと、お姉ちゃんの不安そうな表情が分かった。


「お姉ちゃん、こんにちは」

「こ、こんにちは。あの、あなたも私の事知ってるの?」

「うん。私、風間一花です。由美お姉ちゃん、私が赤ちゃんの頃から知ってるんだよ」

「そう、そんなに小さい頃から……ごめんなさい、私、何も思い出せなくて」

「ううん、いいの。何よりも、由美お姉ちゃんが無事で良かった」


由美お姉ちゃんの手を握ってそう言うと、お姉ちゃんは少し安心したみたいだった。







それから、由美お姉ちゃんが居る新しい生活が始まって。



基本的に、常に人が居る生活。


朝起きたら、美味しいご飯の匂い。


帰ったら出迎えてくれる人がいて。


相変わらずお父さんは居ない時が多かったけれど。

お母さんを知らない私にとっての、もしお母さんが居たら、こんな感じなのかな……なんてこっそり思ったり。


お姉ちゃんは記憶をなくしていても、今までと殆ど変わらないまま、私の事をすごく大事にしてくれた。



こうして暫くの間、ある時期まで、由美お姉ちゃんは風間のお家で私達と暮らした。




そして、この日から十年間。

私は彰お兄に嘘をつく事になった。



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