1995年10月1日
今日は日曜日。
学校はお休みだけど、空手教室がある日。
昨日は塾に遅刻しそうになったから、今日は早く行動して、時間よりも早く教室に着いた。
すごーく土砂降り。
雨。雨。雨。
連日雨が降ったり止んだりを繰り返していたけれど、今日は夕方になってからもっと強い雨で。
レインコート、長靴、傘。
大好きな由美お姉ちゃんとセレナの麗奈さんがこの前の私のお誕生日に買ってくれたセット。
可愛いテディニーランドのキャラクターがポイント。
空手教室で仲良くしてる子達に、全部可愛いって言ってもらったし。
いつも難しい顔をしている師範に技のキレが良くなったって褒めてもらった。
キレ?よく分からなかったけど、上手になったってことだよね。
だから、こんなすごい雨だってちょっと楽しかった。
いつもは嫌いな雷も、我慢できた。
空手教室が終わって、またお父さんの事務所に帰る。
今日はみんな出払っててお迎えに行けないって修ちゃんに言われたけど、一人で帰るのは嫌いじゃない。
筈だったのに。
午後5時47分
空手教室帰りの堂島の事務所の近く。
この辺を通ると、たまに堂島のおじちゃまの所のお兄さん達が私を見つけて事務所にどうぞ、ってしてくれる。
堂島のおじちゃまや、弥生おば様、大ちゃんや組員さん達がおやつをくれたり、遊んでくれて、最後は私のお父さんの事務所まで誰かが送ってくれたり、お迎えが来たりする。
今日は雨だし、お外には誰も居ないだろうな。
また遊んでくれるかな、って考えてたら、堂島の事務所から由美お姉ちゃんと彰お兄が出て来た。
声をかけるにはちょっと遠くて、雷のせいで何も聞こえない。
でも、また会えると思って諦めた。
遠くから、沢山のパトカーのサイレンがきこえた。
びっくりしてたら、どんどん音が近づいてくる。
周りに人が多くなってきた。
パトカーが着いて、救急車も。
おまわりさんが堂島のおじちゃまの事務所に入っていった。
なんで?どうしたの?何があったの?
怖くなって帰りたかったけど、人がいっぱいで動けない。
その間に、おまわりさんに囲まれて事務所から出て来たのは、
「一馬、あに、い?」
私の声が届いたのかは分からない。
でも、目が合って。
私に「ごめん」って呟いたように見えた。
一馬兄ぃはそのままパトカーで連れて行かれた。
何が起こったか分からなくて。
理解したらいけない気がして。
人の塊から、なんとか抜け出して、お父さんの事務所に向かってとぼとぼ歩いていたら、
「一花…!」
足元がびしょびしょの、いつもよりちょっと怖い顔した修ちゃんが走ってきて、ぎゅっとしてくれた。
二人でびしょびしょになっちゃったけど、修ちゃんはすごく温かくて、ちょっと泣いちゃったんだ。
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