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恋と特別(鉢くく)

「騙されたと思って、付き合ってみないか」

 いつもの調子で、なんでもないことのように切り出されて、俺はぱちくりと目を瞬かせた。
 額面どおりに受け取るなら、三郎は俺のことを好いてるってことだ。ありえない。からかわれているんじゃないかって、そう思ったけど、あいつの目に宿る光は冗談にしては真剣すぎた。

「…何で俺なの」

 辛うじて絞り出した問いがこれだった。その言葉に込められた意味を悟ったのか、三郎はふっと目許を緩めた。

「お前のことが好きだからさ。それ以外には何の含みもない、俺の正直な気持ちだよ。」  

 ふっと笑いかけてくる表情も、いつもの調子とはどこか違うような気がした。顔に、熱が集まる感覚がする。

「まあ、お前にだって、俺でなくちゃいけない理由なんてないけど。ただ、俺が他の男と違う点があるとするなら、俺はお前のことを世界で一番愛していて、絶対幸せにできると信じ込んでいるところさ。」

 さあ、俺の手を取る気になったかい。とからから笑う鉢屋。差し出された右手。俺の、気持ちは。
 考えが形になる前に、吸い寄せられるままに、手を伸ばしていた。

 



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