「これ、みよう。」


雨が降っていて外で遊べない日なんかは、だいたい本を読んで過ごすことが多い私。
お人形で遊ぶ玲名や希望たちを微笑ましく思いつつ、壁際に置かれた椅子に座って、お父さんが買ってくれた『楽しい格言集』という本を読みふける。ガラス窓に当たる雨音が妙に心地よかった。

そうして一人読書を楽しんでいたとき、部屋にひょっこり現れた風介が私のところまでやってきて、脈絡もなしに冒頭の言葉を述べたのである。風介からのお誘いなんて珍しい。

どれどれ、と彼の手元に視線を向ければ、そこには白目を剥いた長髪の女性がパッケージの、もう如何にも!といったようなホラー映画DVDがあって。一瞬、私は時が止まったみたいに固まった。


「……えっ、どうしたの、そのDVD。」

「瞳子姉さんからかりた。晴矢とヒロトもさそったから、ユウナもいっしょにみよう。」


ホラー映画が好きなのか。どこかワクワクしたような様子の風介は、ドアの方を指差しながらそう言った。

そちらに目を向ければ、少し不安げな顔をした晴矢と、今にも泣き出しそうな顔をしたヒロトが、ドアの隙間から此方の様子をうかがっていた。
きっと二人はこういう怖い映画とか苦手なんだけど、風介にうまいように言われて、一緒に映画鑑賞することになったんだろう。…うん、どんまい。

私は苦笑を浮かべつつ、手元の本をパタリと閉じた。別に私もホラーが得意ってわけじゃないけど、せっかく誘ってもらったんだし断る選択肢はないかな。
早く、早くと急かす風介に腕を引っ張られながら、私達はテレビのある部屋へと向かった。






瞳子姉さん、幼児にあの映画は怖過ぎるよ…。

風介が瞳子姉さんから借りてきたというホラー映画は、想像以上にクオリティが高く、大人でも泣く人いるんじゃないかってくらい怖かった。
私だって何度か悲鳴を上げてしまったし、鑑賞前は強がっていた晴矢も号泣。ヒロトに至っては、途中で意識を失うほどだった。かわいそうに。トラウマになってないといいけど。

しかし、風介だけは始終目を輝かせていて、突然血だらけの女性が現れたとき皆の悲鳴に交じって一人だけ歓声の声を上げていた彼が正直一番怖かったです、はい…。


「みんな、そろそろ寝なさい。」


瞳子姉さんがそう言うと、テレビをみていた子供たちは「はーい!」と返事をし、素直に寝室へと向かっていく。瞳子姉さんは美人だけど、怒らせたら怖いからね。利口な判断だと思う。

私も遊んでいたトランプを片付けて、寝室へ行こうと腰を持ち上げる。が、しかし、後ろから誰かにぐいっと服を強く引っ張られ、私はまた床に尻をついてしまった。一体なんだ?
振り返れば、映画をみていたときから今まで私の傍を片時も離れなかったヒロトが、私の服の裾を掴んで、何か言いたそうにもじもじしていた。

「どうした?」と尋ねると、ヒロトは眉を八の字にして、ちょっと恥ずかしそうにしながら上目遣いで口を開いた。


「ねえ、ユウナ。きょうは、いっしょのふとんでねても、いい…?」


ズッキューーンッと何かが撃ち抜かれた音がする。何この子、あざと可愛すぎる…!天使かよ。

私はこの胸のトキメキを何とか隠して、笑顔を作ると、「もちろん、いいよ」と言って彼の頭を優しく撫でた。きっと昼間みたホラー映画のせいで、一人じゃ怖くて眠れないのだろう。
もっと撫でて、と頭をぐりぐり押し付けてくるヒロトが、いつもより甘えたで可愛くて、私は彼の気が済むまで頭を撫で続けてあげた。


それから一緒の布団に潜りこんだ私達は、他の子達を起こさないように声を潜めながら、いろいろな話をした。

明日は晴れるかな、とか。晴れたら何して遊ぼうか、とか。あれしたい、これしたいって楽しいことを考えていたら、ヒロトがうつらうつらと船を漕ぎ始めて、私はフフッと笑って「おやすみ」を言った。
ヒロトから、おやすみが返ってくることはなかったから、もう完全に夢の世界へ旅立ってしまったんだろう。寝顔は言わずもがな天使のようだった。


子供たちがいい夢を見れますように、と心の中で唱えて、静かに瞼をおろす。雨戸を叩く雨音が子守唄みたいで心地よくて、私もゆっくりと眠りに落ちていった。



楽しい未来を思って

[ 5/60 ]
[*prev] [next#]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -