緑川ユウナ。それが私の、この世界での名前だった。
この世に二度目の生を受けた私は、どうやら捨て子だったらしく、赤ん坊の頃から『お日さま園』という施設で育てられた。
孤児、といえばかわいそうだと思われがちだけれど、ここは同じくらいの歳の子供がたくさんいるし、血は繋がっていないけれど、皆のことを本当の我が子のように愛してくれる優しいお父さんがいる。
だから、全然寂しくなんかなかったし、ここで暮らす子供たちは誰も自分のことを不幸だと思っていなかった。皆、お互いを家族のように想っていた。
「はい、できたわよ。」
「わーい!ありがとう、瞳子姉さん。」
黄緑という前世では考えられなかった色の髪を、瞳子姉さんに頼んでポニーテールにしてもらい、私はルンルン気分で部屋を飛び出した。
さて、今日は何をして遊ぼうか。晴矢や風介たちに混ぜてもらってサッカーでもしようかな、なんて考える。
元高校生のくせにガキっぽいと思われるかもしれないけど、せっかく与えてもらった新しい人生だからね。今世では前世よりずっとずっと長生きして、やりたいことをたくさんやって、絶対に幸せになってやるんだ。
だから、今は年相応に元気いっぱい遊ぶぞ!“善は急げ”だ!と廊下を走り出せば、部屋から顔を覗かせた瞳子姉さんに叱られてしまった。うん、廊下は走っちゃダメだよね。
早歩きで玄関へ向かう私を見て、瞳子姉さんは満足そうに頷いた。
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「あれ、ヒロトだ。こんなところでどうしたの?」
「えっ、あ……ユウナ、」
誰もいないブランコに座って、漕ぐこともせずに地面をじっと見つめていたヒロトは、私が声をかけると顔を上げ、戸惑ったような表情を浮かべた。一体どうしたんだろう。
お日さま園の中では大人しいタイプのヒロトだけど、その穏やかで優しい性格ゆえに友達は多く、仲間外れにされるような子ではなかったと思うけれど。
首を横に傾げながら、彼の隣の空いているブランコに腰かければ、ヒロトはさらに困惑した様子で私を見つめる。なんで?と言いたげな顔だ。そんな視線には気づかぬふりをして、私はブランコを軽く漕ぎながら言った。
「ブランコなんて乗るの、ひさしぶりかもしれない。」
「え、そうなの…?」
「うん。私、走るのが好きだから、いつもはサッカーとか鬼ごっことかして遊んでるんだー。」
「……しってるよ。ここからだとよく見えるんだ。ユウナたちがサッカーしてるのも、玲名たちがなわとびしてるのも。父さんがきてくれたときだって、ここにいたらすぐわかる。」
そう言ったヒロトの顔は、なんだか寂しそうで。ああ、なるほど。ヒロトがここにいる理由が漸くわかった。
ヒロトはずっと待っているんだ、お父さんが来てくれるのを。お日さま園の門がよく見えるこのブランコに乗っていれば、お父さんが来たときすぐに気づくことができるから。すぐに会いに行けるから。
お父さんがいつ来てくれるかなんて、明確な時間はわからないのに、それでもヒロトは一人でずっと待っているんだろう。大好きなお父さんを。
私は皆が一緒だから寂しくなんかない、なんて言ったけど、ヒロト達はまだ幼い子供だから親の傍にいられないのはやっぱりつらいんだな。
「……よし!」
私は足を地面につけて、ブランコを強引に止めると、立ち上がってヒロトの後ろへと回った。「えっ、なに?」と動揺するヒロトに、にやりと悪戯な笑みを浮かべる。
そして、すぐさまヒロトの座るブランコに足を掛けると、もう片方の足で地面を蹴り、勢いよく彼のブランコに飛び乗った。ぐわんと突然前へ動き出したブランコに、ヒロトが「うひゃっ!?」と悲鳴に近い声を上げる。私は気にせず、そのままブランコを漕ぎ始めた。
「ちょっ、と…ユウナ!あぶないよ!!」
「ふふ。その反応……さてはヒロト、二人こぎがはじめてだな?」
「うっ、そう、だけど…っ、それより!どうしてきゅうにこんなこと、」
「んー?だって、高くこいだ方がとおくまで見わたせるから。お父さんが来たら、もっと早くわかると思ってさ!」
「!」
顔を上げたヒロトが、目を丸くしながら私を見つめる。晴矢より明るめの赤い髪が、サラリと風に靡いた。
私はもっと高く漕ごうと、体重を前後にかけながら「それに、」と言葉を続けた。
「一人で待つより、二人で待っている方がぜったいに楽しいでしょ!」
私がにぱっと笑ってそう言えば、目を丸くしていたヒロトも釣られたようにフフッと笑みをこぼした。うんうん、やっぱり笑顔が一番!“笑う門には福来たる”ってね。
それから、私達は天まで届くんじゃないかってくらい、高く高くブランコを漕ぎ続けた。お父さんが私達に会いに来てくれるまで、ずっと。
寂しいときは隣に
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