「わあ、ユウナさん素敵ですっ…!」

「ほんと!やっぱり、緑川さんは明るい色が似合うわね。」

「せっかくだから、髪を下ろして、緩く巻いてみたらどうかな?」

「いいですね!私、コテ持ってきますよ!」


「い、いやー、別にそこまでしてもらわなくても…!」


音無さんを止めようと慌てて手を伸ばすが、僅かに届かず。あーあ、行っちゃった…と遠くなる彼女の背中を見て、私は肩を落とした。どうして、彼女達は私のドレスアップにこんなにも気合を入れているんだろうか。
このドレスなら靴はあれがいいとか、薄くメイクもしてみようとか、そんな会話で盛り上がっている木野さん達を尻目に、私は深い溜め息をこぼした。

ドレッシングルームに案内され、ここから好きなドレスを選ぶように言われた私達。並べられた華やかなドレスを手にとっては、あれもいい!これも素敵!とはしゃぐ彼女達は、まさに年相応の女の子って感じで可愛らしかった。
それに対し、毎日サッカーに明け暮れ、これまでお洒落というものに無縁だった私は、ドレスを選べと言われても、どう選べばいいのかよくわからなかった。
まあ、あまり目立たないものならなんでもいっか。そう思って、「これでいいや」と比較的地味めなドレスを、適当に選んでしまったのがダメだったのだろう。すぐさま猛反対した音無さんに、まさかの木野さんと久遠さんまでもが援護に入る。それから、あれよあれよという間に、すっかり全身コーディネートされてしまったわけだ。

「完成よ!」と言って、櫛とコテを持った木野さんが満足げに微笑む。鏡に映った自分の姿を見て、私は思わず「おお…すごいな」と感嘆の声をもらした。
清楚で愛らしい印象を与えるイエローカラーのクラシックドレスに、木野さん達が選んでくれたアクセサリーを身につけた私は、華やかだけど、派手過ぎず、自分でも驚くくらい様になっていた。まるで、どこぞのお姫様みたいだ。
悩みだったクセ毛も綺麗なゆるふわ巻きにしてもらい、先程までの憂鬱な気分が嘘のようにテンションが上がっていく。そんな私を見て、「この姿を見たヒロトさんの反応が楽しみですね」と音無さんは何もかも知っているような笑みを浮かべた。


「さっ、そろそろ時間よ。みんなのところへ行きましょう。」

「えへへ。なんだか、ドキドキしちゃいますね…!」


とっても可愛くドレスアップしたマネージャーさん達はキャッキャと楽しそうにドレッシングルームを後にする。私はもう一度鏡を見て、おかしいところはないか確認してから、彼女達の背中を追いかけた。


(……この姿を見て、ヒロトはどう思うかな。)


かわいいって、少しでも思ってくれたらいいな、なんて。




パーティーに行くための支度を終え、エントランスホールに集まって談笑していた選手達は、階段から降りてきたマネージャーさん達のドレス姿に思わず息を呑んだ。そりゃ、こんな花も恥じらう可憐な乙女達の着飾った姿を見たら、頬を赤くして見惚れてしまうのも無理はないだろう。
私はというと、マネージャーさん達と一緒に出ていこうとしていたものの、彼女達に比べれば見劣りしてしまう自分の容姿が恥ずかしくて、階段を降りれずに立ち止まっていた。

「かわいいです!」「キレイでやんす…!」そんな賞賛の声が飛び交い、嬉しそうに照れる三人。しかし、そこに綱海の軽薄な発言が飛び出す。


「へえ!思ったより、似合ってんじゃねーか。」


あっ、と横に居たヒロトが止めようとする素振りを見せるも、既に手遅れだった。マネージャー三人の冷めた視線が綱海へと向けられる。


「「「え?『思ったより』…?」」」

「あっ…、悪い悪い!ついつい思ったこと言っちまってよ。」

「……フォローになってないぞ。」

「は、はは…。」


呆れ顔の鬼道からツッコミが入る。もちろん、綱海に悪気はなかったのだろうが、『口は禍の門』だ。こういうことに女性は人一倍敏感であるし、発言には気を付けなければ。ジト目で睨まれた綱海は、顔を青くしながら彼女達に謝罪を繰り返していた。


「……と、いうか!いつまでそこに居るんですか!」


春奈の視線がコソコソと隠れていた私に向けられる。ひえっ、待って、まだ心の準備が…!選手達が不思議そうに見ている中で、春奈は階段を戻ってきて、狼狽えていた私の腕を引っ張った。

フワリとドレスの裾が揺れる。ついに姿を現した私に、え、と目を見開く選手達。そりゃそうだ。みんな、私は日本にいるもんだと思ってるだろうし。全員の視線を集めた私は、照れくさそうに頬を掻きながら口を開いた。


「えーと、久しぶり!……って程でもないよな。
ゴホン……今日からイナズマジャパンの監督補佐を務めます、緑川ユウナです!日本の勝利に貢献できるよう、精一杯頑張りますので、改めてよろしく!」


「監督、補佐…って、」

「「「「ええええ!?」」」」




驚愕と歓喜の叫び
 



これまでの経緯を説明すると、イナズマジャパンの仲間達は誰一人として不満の声は洩らさず、私との再会を喜び、歓迎の言葉を投げかけてくれた。ほんと、いい奴らばかりだなぁ。


「しかし、まさか監督補佐になって戻ってくるとは…。」

「ああ、緑川には驚かされてばかりだ。でも、よかったな!ヒロト。………ヒロト?」

「……。」

「………見惚れてる場合か!」

「わっ、」
 

私を見てポー…としていたヒロトの背中を、風丸が力一杯押すと、彼はたたらを踏んで私の前に躍り出た。
わ、ヒロトってばタキシード姿すごく似合う…!まあ、身内の贔屓目なしにヒロトはイケメンだし、どんな服も大体着こなしちゃうんだけど、これはレベルが違うというか……世界で一番格好良くないか??(完全に身内贔屓)

翡翠の瞳とばっちり視線が交わえば、あの夜のことを思い出して少し鼓動が早まる。しかし、そんなことは露知らず、ほんのりと頬を赤く染めたヒロトは、「いろいろ言いたいことはあるけど…」と微笑を浮かべ、私に手を差し出した。


「ユウナ、おかえり。」

「うん…、ただいま!」


ヒロトの手を取り、にぱっと笑みを浮かべれば、彼は眩しそうにその切れ長の目を細めた。

[ 60/60 ]
[*prev] [next#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -