「そういう他人の最大限の力を引き出す能力って、キャプテンとか監督向きだと思う。」


あの夜、ヒロトが本当は何を伝えようとしていたのか、それは私にはわからない。でも、彼がくれた言葉は、今の私の迷いを払拭してくれるものだった。だから、


「久遠監督、私ーー」



心機一転、新たな道へ



「……とまあ、そんなわけで、今は響木監督って人から監督業とは何かをいろいろご教授頂いてるんだ。」

「へー、大変そうだな。」


夕飯の買い出し中、偶然にも晴矢と風介と会ったので、私達は近くの公園に立ち寄り、近況報告をし合っていた。韓国帰りの彼らは今日、久しぶりにお日さま園に帰省する予定らしい。
「しかし、ユウナが監督補佐とはね…。」風介が興味深そうに呟くと、リフティングするのを止めた晴矢が、私を一瞥してぶっきらぼうに言った。


「まっ、選手よりかは向いてんじゃねぇの。意外とリーダーシップあるし、戦術にも長けてるしな。」

「フッ、ユウナに抜かれたくせによく言うよ。」

「んだと…!」

「ま、まあまあ…。」


挑発する風介に、すぐ乗せられて喧嘩腰になる晴矢。全く仲が良いんだが、悪いんだか……二人の関係は相変わらずのようだ。
ふと公園にある柱時計に目を向けると、ここに来て既に30分は経過していることに気がついた。いけない、長居しすぎたか。私はベンチの上に乗せていた買い物袋を手に取り、「そろそろ行くよ」と二人に告げた。


「それじゃ、瞳子姉さんやお日さま園のみんなによろしく!」

「おー。頑張れよ。」

「イナズマジャパンの活躍を楽しみにしてるよ。」  

「うん!ありがとう!」


二人と別れた私は、響木監督が首を長くして待っているであろう『雷雷軒』へと足を向けた。そう、今の私は響木監督のご厚意で『雷雷軒』に宿泊させてもらっている。そして、そこで監督のいろはを勉強させてもらっているのだ。

天を見上げれば、そこには雲一つない澄み切った青空が広がっている。……ああ、みんなは今頃どうしているだろうか。一足先にライオコット島へ向かった仲間達のことを想い、私は拳を強く握った。早くみんなと合流したい。そのためにも、今は勉強を頑張らなくては…!





「ーーロト、おい。ヒロト!」

「っ、ああ……ごめん、なんだい?円堂くん。」


ぼーとしながら昼食を食べていたヒロトは、円堂に肩を叩かれて、漸く自分が呼ばれていることに気がついた。ライオコット島を訪れてから数日、練習以外ではずっとこんな調子のヒロトに、さすがの円堂も「おまえ、ここんとこ変だぞ?」と訝しげな表情を浮かべた。


「重症だな。」

「ああ…。本人は暫くしたら慣れるはずだって言ってたが、」

「むしろ、悪化してないか…?まあ、練習に支障をきたしてないのが幸いか。」


少し離れた場所から彼らの様子を窺っていた鬼道、風丸が深刻そうに話し合う。ヒロトにとって緑川ユウナという少女の存在がどれほど大きいのか、それはエイリア学園での彼の執着ぶりからして予想はついていた。
本人は大丈夫だと言ってるが、本当にこのまま放っておいて大丈夫なんだろうか。二人は困ったように顔を見合わせる。そのとき、食堂に入ってきた木野が「みんな、ちょっと聞いて!」と少し上擦った声で言った。


「「「親睦パーティー?」」」

「ええ。『ナイツオブクィーン』からの招待よ。試合をする前に親睦を深めたいから、今日の6時、ロンドンパレスに正装して来てほしいって。」


イギリスの代表チーム『ナイツオブクィーン』から突然届いた招待状に、目を丸くするイナズマジャパンの選手達。綱海は“正装”と聞いて、うげっと顔を顰めている。「そういうわけだから、時間までに準備してね」と釘刺す木野に、選手達は「はーい」と返事をした。


「ヒロト。今の話は聞いてたか?」

「うん。6時までに正装に着替えるんだよね。」

「そうなると、練習も早く切り上げないとだな。」

「俺、パーティーなんて初めてです…!」

「ご馳走たくさん出るッスかねぇ?」


選手達はわいわいと今夜のパーティーの話で盛り上がる。そして、昼食を食べ終えた者から次々とグラウンドへ向かい、張り切って午後の練習に取り組むのだった。


「……パーティーか。ユウナも行きたかっただろうなぁ。」







「ーーついに来たぞ!『ライオコット島』!!」


仲間達より数日遅れて『ライオコット島』を訪れた私は、長い搭乗だったにも関わらず、元気よく空港を飛び出した。そして、目の前に広がった迫力のある光景に、「おお…!」と思わず感嘆の声を上げてしまう。

FFI本戦会場となるこの『ライオコット島』は、見渡す限りサッカーがモチーフの物ばかりで、FFIの開催を祝して昼間からお祭りのように賑わっていた。さすが、“サッカーアイランド”と呼ばれるだけある。
先程貰ったパンフレットを確認するに、この島はエントランスエリアや各国のエリアがある本島、試合を行うためのスタジアムがある複数の島々から成り立っているらしく、その規模は私の予想を遥かに超えるものだった。
さらに注目すべきは、各国エリアだ。国ごとに区切られたそのエリアは、選手達の本来の実力が発揮できるように各国の街並みを再現してるようで、軽く世界旅行気分を味わえてしまうらしい。これは是非とも全エリアを回りたい!そして、各国のグルメを堪能したい…!

もちろん、本来の目的を忘れたわけではないが、こんな楽しそうな場所に来たら興奮してしまうのも無理はないだろう。あちらこちらに目移りしていると、「ユウナさーん」と遠くで私の名を呼ぶ声が聞こえた。この声はもしや…、と振り返れば、予想通り。

そこには大きく手を振る音無さんと、その後ろに見慣れたイナズマキャラバンがあった。どうやら、お迎えに来てくれたらしい。


「本当にビックリしましたよ!まさか、こんなすぐ再会できるなんて!」

「私もだよ。立場は変われど、今後共よろしく!」


私達は手を取り合い、数日ぶりの再開を喜ぶ。たかが数日だけど、ここのところ毎日顔を合わせていた仲間だから、やっぱり会えない期間はちょっぴり寂しかったんだよね。
古株さんにもご挨拶して、久しぶりにイナズマキャラバンに乗車した私は、音無さんと各国エリアの街並みを楽しみながら、日本エリアへと向かう。さすが情報通な音無さんだけあって、移動中もこの『ライオコット島』のことや『FFI』についていろいろと教えてくれた。そして、


「親睦パーティー?」

「はい!『ナイツオブクィーン』から招待状が届いたんです!」


音無さんは明るく弾んだ声で、今夜招かれることになったパーティーについて語りだす。へえー。試合前に親睦を深めるパーティーを開くだなんて、なかなか粋なことをするチームじゃないか。
「正装で参加らしいですから、後で一緒に着ていくドレス選びましょーね!」と、ルンルンで話す音無さんを眺めていたら、なんだか私も今夜のパーティーが楽しみになってきた。


(なにより、ようやくヒロト達とも会えるしね…!)


ふふふ…きっと驚くだろうなぁ、とニヤける私に、「ユウナさん今、木暮くんみたいな顔してますよ…?」と音無さんは訝しげな表情で言った。

[ 59/60 ]
[*prev] [next#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -