鬼道を始め、不動を信じることで結束を固めたイナズマジャパンの選手達。しかし、アフロディ、晴矢、風介の連携必殺シュート”カオスブレイク“が炸裂し、『ファイアードラゴン』に再び勝ち越しを許してしまう。残り時間が少ない中、どうにか点を取ろうと必死にフィールドを駆け回る選手たち。
そんな中、ミス続きで思うようにプレーできていない飛鷹に、キャプテン円堂が声をかけた。


「失敗したってかっこ悪くなんかない。もっとかっこ悪いのは、失敗を恐れて全力でプレーしていない、今のおまえだ。」


失敗したっていい。今のおまえを全部プレーにぶつけてみろよ!その言葉に大きく頷いた飛鷹は、これまでの努力と必死のプレイで覚醒させた、必殺技“真空魔”を発動。あの“カオスブレイク”を防いだ。


「よし、みんな行けー!速攻だ!!」


そのまま攻勢に転じたイナズマジャパンは、一気にシュートレンジまでボールを繋げる。そして、ついにヒロトのパワーアップした“流星ブレードV2”が敵のGK技を打ち破り、再び同点に追いついた。ほら、私が言ったとおりだ。やっぱり、ヒロトはかっこいい…!
こちらを振り返ったヒロトに笑顔で手を振れば、彼はぱっと表情を明るくし、嬉しそうに手を振り返してくれた。

さあ、残る時間は僅か。あと少しで世界への道が開かれる。見守ることしかできない私達ベンチ組やマネージャー達は、手に汗を握りながら、只々ひたすら彼らの勝利を願った。
そして、両者一歩も譲らない攻防を繰り広げる中、円堂の“怒りの鉄拳”、豪炎寺と虎丸の“タイガーストーム”が炸裂。得点は4対3で、ついに韓国を逆転した。

そこで大きく鳴り響くホイッスル。


《予選突破ーー!世界への切符を手にしたのは、激闘を制した『イナズマジャパン』だーー!!!》

「「「「……っっ!!!」」」」


やったーー!!!

会場いっぱいに歓声があがる。これで、次は世界にいけるんだ…!選手達はガッツポーズをしたり、肩を組んだりして仲間と勝利の喜びを分かち合う。
きゃあきゃあ、と飛び跳ねるマネージャーさん達の隣りで、私も吹雪とハイタッチして、イナズマジャパンの勝利を心から祝福した。




アジア予選終幕、そして世界へ




「緑川。」

「はい。なんでしょう、監督。」

「一つ、おまえに提案がある。」


合宿所に戻ってからも興奮が収まらず、食堂に集まってアジア予選の感想や世界に対する期待を語り合うイナズマジャパンの選手達。今夜はご馳走らしく、厨房からもマネージャーさん達の楽しそうな声が聞こえてくる。

そんな中、久遠監督に呼び出された私は、少し肌寒い屋上で彼と向かい合うようにして立っていた。わざわざこんな場所に移動までして、一体なんの用だろうか。
監督の喜怒哀楽の読めない鋭い目が私を射抜く。初めの頃は臆していた、この見定めるような視線にも随分と慣れたもんだなぁ、なんて思いながら私は彼の言葉の続きを待った。そして、


「監督補佐をやる気はないか。」

 
その予想もしていなかった監督からの“提案”を聞き、私は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。なんだ、監督補佐って…。え?選手じゃなくて、マネージャーでもなくて、監督補佐???いずれは副監督を任せたいって……ダメだ。全く理解が追いつかない!
返事は明日聞くから、今晩じっくり考えろって言われたけれど、そんな大事なことを一晩で決められるか…!

久遠監督が去った後もみんなのもとへ戻る気は起きず、私は屋上の手すりに寄りかかった。冷たい夜風が頬を刺す。上着持ってくればよかったな、と少し後悔しながら、私はポケットに手を突っ込み、筒形をした藍色の万華鏡を取り出した。幼い頃、ヒロトから貰った私の宝物だ。
筒の先にある覗き穴を覗けば、そこから見えるのは夜空に瞬くお星さま。あれから何年も経っていろいろな変化があったけど、この星々は変わることなくキラキラ輝いている。これを見ると、不思議と心が落ち着くんだよね。


「……監督補佐、かぁ。」


戦力外通告を受けて、漸くみんなと世界へ行くことを諦める決心がついたっていうのに、まさかのまさか、こんな展開が待っているとは。“時は得難くして失い易し”と言うし、正直こんな好機を逃すのは勿体無いと思う。でも、キャプテンを務めた経験はあれど、監督補佐なんて……果たして私に務まるだろうか。

万華鏡を覗き込むのをやめて、ほう…と溜め息をこぼす。そのとき、すぐ真後ろから名前を呼ばれ、私は大きく肩を揺らした。


「ひ、ヒロト…!」

「こんなところで何をしてるんだい?」


「マネージャー達が作ってくれたご馳走、もうみんな食べ始めてるよ」とヒロトは微笑む。どうやら彼は、私がいないことに気づいて、わざわざ探しに来てくれたらしい。
せっかく来てくれたのに申し訳ないけど、今は独りになりたい気分だった。私はへらりと笑みをこぼし、「すぐ戻るから、ヒロトも先に食べててよ」と告げる。しかし、ヒロトはそれに応じず、私がすぐに戻らないと知ると、自分の上着を脱いで私の肩にかけてくれた。


「そんな薄着じゃ風邪引くよ。」

「あ、ありがとう…。」

「……万華鏡、ここに持ってきてたんだな。」

「え?……ああ、うん。いつも肌に離さず持ち歩いてるよ。試合のときは壊しちゃうかもしれないから、さすがに置いていくけど。」


私の手に握られた万華鏡を見て、ヒロトは目を細める。そして、私と同じく手すりに重心を預けると、夜の誰もいないグラウンドを眺めながら穏やかな声で言った。


「俺、ユウナの『大丈夫』って言葉を聞くと、本当に大丈夫だって思えるんだ。今日の試合も、あのお祭りのときだって…、俺が全力を発揮できたのはユウナの応援のおかげだよ。」

「ははっ、なんだそれ。普通に全部、ヒロトの実力だって。」

「いや…、本当に、俺はユウナが居ないとダメなんだって、今日改めて思い知ったんだ。」

「ヒロト…?」

「ユウナ…、俺、」


翡翠色の瞳が、私へと向けられる。その熱を帯びた真剣な眼差しに、私は顔にどんどん熱が集まっていくのを感じた。ドクンドクンと胸が早鐘を打つ。
あれ、変だな…。夜の屋上で男女二人が見つめ合って…、こういうシチュエーション、杏とマキにオススメされた少女漫画にあったよね…?


「俺、ユウナのことが、す……」


そう…、この状況はまるで、愛のこくは



「あっ、いたいた!おーい、二人とも!こんな場所で何やってんだよー。」


「早くしないと壁山にご馳走全部食われちまうぞー?」と屋上に響く円堂の活発な声。慌てて振り返れば、そこには屋上の扉から顔を出す円堂と、そんな彼を真っ青な顔で止めようとする風丸の姿があった。どうやら、ヒロトと同じように、彼らも私達のことを探しに来てくれたらしい。
拍子抜けした顔のヒロトに「今、なんて言おうとしてたの?」と尋ねれば、彼はえっ、と少し動揺を見せてから、ぎこちない笑みを浮かべて言った。


「俺、ユウナのこと、す、っごく尊敬してるんだ…!そういう他人の最大限の力を引き出す能力って、キャプテンとか監督向きだと思う。」

「えっ、」

「ああ!俺もそう思う!ユウナはチームのみんなから信頼されてるし、おまえがいるとチームワークがさらに良くなるっていうか…。この前の、『ビッグウェイブス』との試合のときもさー、」


円堂がやってくると、静かだった屋上が一気に賑やかになる。彼の後ろを着いてきた風丸は、「邪魔してすまない…」と非常にすまなそうな様子でヒロトに謝罪した。それに対し、ヒロトは「いや、」と眉尻を下げながら微笑をこぼす。


「むしろ、良かったと思うよ。よく考えてみたら、今伝えるのはベストじゃないし。」

「……でも、暫く会えなくなるだろ?」

「……だからこそ、だよ。」


なんだろう。声が小さくて、2人のやりとりがよく聞こえない。疑問符を頭に浮かべる私に、ヒロトは苦笑を浮かべた。
「行こう。早くしないとご馳走なくなっちゃうってさ」そう言ってヒロトは、まだ語り続けている円堂の話に相槌を打ちながら、先に屋上を出て行ってしまった。呆気にとられた様子で立ち尽くす私に、風丸から心配そうな声がかかる。


「ユウナ、大丈夫か…?」

「………ると、思った。」

「え?」

「告白、されるかと思った。」


果たして、それは私の勘違いだったんだろうか。火照る頬に手を当てる。あのヒロトの熱い眼差しを思い出せば、羞恥がじわじわと後追いしてきて、私はその場にしゃがみこんだ。そんな私の様子を見て、風丸は「案外、そこまで鈍感じゃないんだな」と意外そうに呟いた。

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