試合が再開すると、相手からボールを奪い取った不動は、約束通り私にパスを回してくれた。ああ、やっぱり、思ったとおりだ。急げば届かないパスじゃない…!


《ついに不動のパスが緑川に繋がったーー!!》

「!ユウナ」

「さすが、緑川さんッス…!」



「…おっと、この先は通さねぇぜ!」


すぐさま晴矢に行く手を阻まれた。さて、どうするか。晴矢には既に“ライトニングアクセル”を破られている。もう一度、同じ技で挑んでみるか、

いや、


「今こそ、“あの技”の使いどころだな!」


「……たった一度しか使えない技?」

「そうや!世界に通用するのは一度きりかもしれん。せやけど、必ず敵の意表を突く“とっておきの必殺技”を、アンタに伝授したる!」

「必ず敵の意表を突く…。」

「えー、今からそんな使い捨てみたいな技を覚える必要あるか?ドリブル技なら“ライトニングアクセル”があるんだしさぁ。」

「…いや、“念には念を入れよ”だ。例え使い捨てだとしても、世界に通用するのならば、ぜひ教えてほしい。」

「よっしゃ、任せときー!」


浦部から教えてもらった、“とっておきの必殺技”。本当にうまくいくのか少し不安ではあるけれど、このチャンスを逃すわけにはいかない!私は彼女を信じてボールを蹴り上げた。

高く上がったボールから桃色の風が巻き起こる。そして、私が晴矢の周りを囲うように舞えば、やがてそこには桃色の世界が広がった。
「は?えっ??」と困惑している晴矢をクスリと笑い、私は誘惑するように彼に手を差し伸べる。すると、彼も私に釣られるように手を伸ばし、一緒にくるりくるりと回りだした。

これが、“とっておきの必殺技”


「“プリマドンナ”!!!」

「!?!?」


私と晴矢は息ぴったりに片足を上げ、反対方向に跳び上がる。擦れ違った形が大きなハートのように見えるこの技は、浦部の地元のチーム『大阪ギャルズCCC』(確か、エイリア学園のナニワ地下修練場を勝手に使用していたチーム)が生み出した技らしい。

イナズマジャパンにはこの技に覚えのある選手が多く、辺りから驚愕の声が上がっている。そして、なぜか風丸の顔が若干青褪めているんだが、何か嫌なことでも思い出したんだろうか…?

華麗に晴矢を抜き去ると、彼は地面に膝をつき、「俺はなにを…」と意気消沈してしまった。どうやらこの技は精神攻撃にも有効らしい。今がチャンス!とばかりに私は“トリプルアクセル”でゴールまで駆け上がる。正直、足がかなりキテるけど、休んでいる暇なんてない。ここが正念場なのだから。


「スッゲーぞ!ユウナ!」

「あいつ、いつの間にこんな必殺技を覚えて…。」

「フッ、今日でクビだってのに頑張るねぇ。」


私の目覚ましい活躍に仲間達が目を白黒させている中、不動は見下した笑みを零した。……全くわかってないなぁ、不動は。


「地球にはこんな言葉がある。“有終の美を飾る”ってね!」


日本代表に選ばれてから、いろいろなことがあった。世界には想像を絶する強者達がたくさんいることを知り、性別の力の差に悩まされ、時には仲間の才能に嫉妬してしまうこともあった。
それでも、私はイナズマジャパンの選手に選ばれたことを誇りに思っている。素晴らしい仲間達に出会えたこと、厳しい特訓を重ねて強くなれたこと、勝利の喜びをみんなで分かち合えたこと、どれも代表選手に選ばれてなかったら成し得なかったものだから。

イナズマジャパンの選手としての誇りを胸に、私は最後まで全力で戦いたい…!


「“アストロゲート”!!!」


力の限り蹴り飛ばした紫のオーラを纏ったボールは、地面を激しく削りながらゴールへ向かっていく。そして、敵のキーパーが必殺技を繰り出すも、ボールの威力は衰えることなく、鋭くゴールネットに突き刺さった。




これが努力の成果だ




《ゴーーールッッ!!!イナズマジャパンの紅一点、緑川ユウナの新必殺技“アストロゲート”が炸裂!ついに同点だーー!!!》

「っっっ…!!」


シュートが決まり、全身から喜びが迸る。そのあまりの嬉しさに、私はすぐに声を出すことができなかった。代わりに集まってきた仲間達が、すごいすごいと褒めてくれる。


「やっぱり、ユウナはイナズマジャパンが誇る優秀なサッカープレーヤーだ!」


円堂のその言葉に、私の目からほろりと涙が零れ落ちた。ああダメだな…、まだ試合は終わってないっていうのに、胸がいっぱいだ。ギョッとする仲間達に、私は泣き笑いをしたままお礼を言った。

ありがとう。本当に、その言葉が何よりも嬉しいよ。


「緑川。」

「……はい。自分の身体ですから、よくわかってます。」


監督に呼ばれ、私は彼が言わんとすることを悟った。本当はこの試合が終わるまで、みんなと一緒に戦いたかったけど、今の私にそれだけの力は残っていない。残念だけど、私が試合に出れるのはここまでのようだ。
でも、最後にゴールを決められた、イナズマジャパンとしての務めを果たせたのだから、後悔はないよ。


「ユウナ…。」


鬼道と交代を言い渡されてベンチへ戻ろうとしたとき、消え入るような声で、名前を呼ばれた。振り返ると、そこにはなぜか今にも泣きだしそうな顔のヒロトが立っていて、私は目を丸くする。その表情は悲しいのに妙に強がって涙を堪えていた、幼い頃の彼と重なった。


「どうしたの?そんな情けない顔して、イケメンが台無しだよ。」

「……ユウナ、俺、この試合に勝ったらユウナも一緒に世界へ行けるんだと思ってたんだ。でも、それは叶わないんだって知って驚いて…。
ユウナにとってこれが最後の試合なら、絶対に勝たせてやりたいって思うのに、シュートは何度打っても決まらないし、不動くんは身勝手だし、これっぽっちもうまくいかなくて。」

「ヒロト…。」

「ごめん、俺…、今日はかっこ悪いとこばかり見せてるな。」

「そんなことない。ヒロトはいつだってかっこいいよ。」


私はヒロトの両手をとり、パワーを送り込むように力を込めた。俯き気味だったヒロトが、顔を上げる。その優しい色をした切れ長の瞳と目を合わせ、私は太陽にも負けないくらい眩しい笑みを浮かべた。


「大丈夫。ヒロトなら、次は絶対に決められるよ。おまえの成長を誰よりも近くで見守ってきた私が言うんだから間違いない。そうでしょ?」

「ユウナ、……うん。そうだね。次は絶対に決めてみせるよ。だから、ユウナはそこで見ていて。」

「もちろん!たとえ代表選手じゃなくなったとしても、遥か離れた地に行ってしまっても、私はずっとずっとヒロトのこと見てるよ。」


私がそう言うと、ヒロトは胸のつかえが下りたのか、すっきりした表情で微笑んだ。そして、私と立向居と交代した鬼道、円堂と共に仲間達のもとへ駆けて行った。

大丈夫。ヒロトなら、イナズマジャパンの仲間達なら、必ずこの試合に勝利して、世界への切符を手に入れられる。私はベンチに腰を掛け、マネージャーさん達と共に試合の続きを見守った。

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