《ーーさあ、いよいよ始まります!フットボールフロンティアインターナショナル、アジア予選決勝戦!日本代表『イナズマジャパン』が激突するのは、アジア最強と呼び声も高い韓国代表『ファイアードラゴン』!世界への切符を手に入れるのは、果たしてどちらのチームなのかーー!?》


今大会一番の歓声が沸き起こる。ああ、ついにこの日がやってきてしまった。これまで、熱い戦いを幾度となく繰り広げてきた馴染みのフィールドに、私達は足を踏み入れる。

これが私の、日本代表としての最後の試合だ。ずっと恐れ続けてきた“最後”という響き。きっとそのときが来たら、私は底知れぬ程の絶望と悲しみに打ちひしがれるに違いないと思っていた。
けれど、大夢や浦部達のおかげで、監督からの通告をしっかりと受け入れ、前向きに捉えることができたから。私は晴れ晴れとした表情で今日という日を迎えられている。本当に彼らには感謝せねば。


「絶対に勝って世界に行くぞ!」


円陣を組んだ私達は、キャプテン円堂の声に全力で応える。すると、「元気そうだね」と後ろから聞こえてきた、どこか聞き覚えのある中性的な声。
振り返れば、そこには長く美しい髪を靡かせてこちらへ歩み寄る、世宇子中サッカー部キャプテン、アフロディの姿があった。えっ、どうして、彼がここに…?

思いもよらない人物の登場に面食らうイナズマジャパンの選手達。すると、さらに驚くことに、アフロディの後ろからぞろぞろと現れたのは、バーンとガゼル……いや、南雲晴矢と涼野風介だった。真っ赤なユニフォームを身に着けた彼らは、挑戦的な笑みを浮かべながら口を開く。


「不思議ではないだろう。僕が母国のチームに選ばれても。」

「俺達はアフロディにスカウトされて、このチームに入ることを決めた。」

「もう一度、キミたちと戦うためにね。」


韓国代表『ファイアードラゴン』。どうやら彼らはその代表選手であり、FFIアジア予選決勝の対戦相手らしい。これぞ、まさに“青天の霹靂”だ。誰も予想していなかった展開に心が騒ぎ立つ。

しかし、『ネオジャパン』に続き、今度は『ファイアードラゴン』との対決か…。こうしてエイリア学園の仲間達と戦い続けるのは、私達の運命なのかもしれないな。
……嘗てセカンドランクだった頃の私は、マスターランクの彼らに圧倒的な力の差を見せつけられ、膝まずくしかなかった。でも、もうあの頃の私とは違う。
過酷な特訓を重ね、たくさんの強者達と戦い、着実に力を身につけてきた。この数カ月の努力が決して無駄ではなかったと証明する上で、彼らは絶好の相手と言えるだろう。これは尚のこと負けられないな、と私は拳を強く握った。

「緑川」と久遠監督が私を呼ぶ。その獲物を狙う鷹のような鋭い眼光に動じることなく、私はきびきびと返事をした。私達の間に流れるどこか異様な空気に気づいたのか、仲間達がこちらを気にする素振りを見せる。
監督の目をまっすぐ見つめ返せば、少しの沈黙を経て、彼は非常に冷ややかな声色で言った。


「これがお前にとって、日本代表としての最後の試合だ。だが、例え最後であろうと戦力にならないと判断した時点で、容赦なくベンチに下がってもらうからな。」

「もちろんです。それがチームを勝利に導くために必要であると監督が判断されたのなら、私はそれに従います。」


「日本代表としての、最後の試合…?」

「えっ、それってまさか…。」

「ど、どういうことっすかぁー!?」

「説明しろ、緑川。」

「ユウナ…。」


どよめくチームメイト達に申し訳ない気持ちを抱きながら、私は眉尻を下げてへラリと笑う。隣りで不安げな顔をするヒロトに、そんな顔をするな、と背中を軽く突いてやった。



「黙っていて悪かった。実は『デザートライオン』との試合後、通告があってね。この試合を最後に、私は日本代表を降りることになったんだ。……これ以上私がここに居ては、みんなの足を引っ張ることになりかねないからね。」

「何言ってやがる。俺達がここまで来れたのは、おまえがいたからだぜ?」

「そうだよ、ユウナ!おまえはイナズマジャパンが誇る優秀なサッカープレーヤーだ…!」



円堂のその言葉に大きく頷くイナズマジャパンの選手達。彼らの目は誰一人として嘘をついているようには見えなかった。……初めて会った頃からそうだ。チームでは唯一の女子選手だった私を、彼らは女だからと蔑視せず、分け隔てなく接してくれた。一人前のサッカープレーヤーとして、同じ夢を目指す仲間として認めてくれた。
こんな最高な仲間達と出会えて、共に世界を夢見ることができて、本当によかったと心から思う。私は眩しい光を覗き込むように目を細め、ふっと口元を緩めた。



「……ありがとう。そんなふうに思ってくれていたなんて、すごく嬉しいよ。でも、これは私自身も納得して決めたことなんだ。悔しい気持ちがないわけじゃないけど、しっかりと悩んで受け入れたことだから、今は寸分の迷いもないよ。」

「緑川…。」

「あはは、そんな辛気臭い顔しないでよ!この試合が終わるまでは、私もイナズマジャパンの選手なんだからさ。『やっぱりイナズマジャパンには緑川が必要だ』って監督に思わせるくらい、今日は大活躍するつもりだから、楽しみにしててよね!」



おちゃらけた口調でウインクすれば、深刻そうな空気が少し和らぐ。「期待してるぞ」と鬼道に肩を叩かれ、私はとびっきりの笑顔で頷いた。

さあ、これが緑川ユウナのFFI日本代表としての最後の試合だ。悔いが残らないよう、精一杯のプレーをして、必ず日本に勝利をもたらそう!




私のラストゲーム




キャプテンである円堂がまさかのベンチスタートとなり、ゴールキーパーは代わりに立向居が務めることになった。アジア予選決勝戦というこの大事な試合で、久遠監督が円堂を出さないのにはきっと何かワケがあるんだろうけど…。果たしてこの采配は吉と出るか、凶と出るか。

試合開始のホイッスルが鳴り響き、イナズマジャパンからのキックオフでゲームは動き出す。ボールは豪炎寺から吹雪、風丸へと順調に渡り、早くも先取点のチャンスが訪れた。
豪炎寺と吹雪には敵チームがマークにつくが、その後ろを走るヒロトがノーマークだ。それを見越していた風丸からのパスは、センタリングが大きくカーブし、しっかりとヒロトの元へ届いた。


「“流星ブレード”!!!」


しかし、ヒロトの必殺シュートは、敵キーパーの“大爆発張り手”によって止められてしまった。さすが、決勝戦の相手。一筋縄ではいかないようだ。
……それにしても、サイドを使って揺さぶりをかける鬼道の戦術に、DF、キーパーがしっかり合わせてきた。相手チームには韓国史上最高のゲームメーカーと名高いチェ・チャンスウが居るが、これも全て彼の指示なのだろうか。

チェ・チャンスウからアフロディへとボールが渡り、今度は彼がシュート体制に入る。しかし、それは立向居の“ムゲン・ザ・ハンド”で、しっかりとゴールを死守。円堂が下げられたことに動揺しているように見えたが、彼も日本代表として確実に成長しているらしい。私も負けていられないな。


「“スノーエンジェル”!……ユウナちゃん!」

「ああ、任せろ!」


吹雪からパスを受け取り、フィールドを駆け上がる。前方から相手チームの選手がやってくるのを見て、私はさらに加速させた。今こそ、特訓の成果を見せるとき…!


「“ライトニングアクセル”!!!」


覚えたばかりのドリブル技で敵を抜き去り、私は再び吹雪へとパスを回す。そして、吹雪と土方の連携技“サンダービースト”で、イナズマジャパンは先取点を奪った。


「よくやったぜ、吹雪!土方!」

「緑川もすごいじゃないか!」

「よっしゃぁ!この調子でガンガン攻めようぜ!」


仲間の活躍に大いに盛り上がりを見せるイナズマジャパンの選手達。しかし、相手はアジア予選を勝ち上がってきた強豪国チーム、そう調子よく事が進むわけがなかった。


「……では、始めましょうか。完全なる戦術。“パーフェクトゾーンプレス”を。」


点を奪われたにも関わらず、『ファイアードラゴン』の選手達は余裕の笑みを浮かべていた。

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