私はサッカーが大好きだ。大夢と話すまで、そんな当たり前な気持ちさえ忘れてしまっていた。今思い返してみれば、私はみんなに置いていかれることを恐れてばかりで、純粋にサッカーというものを楽しめていなかったように思う。


「ユウナ!」

「っと、任せて!」


でも、きっともう大丈夫だ。ヒロトからパスを貰った私は、得意のドリブルで相手ゴールへと一気に上がっていく。虎丸のスライディングを躱し、壁山のディフェンス技もうまくフェイントをかけて抜き去った。若草色のポニーテールがひらりと揺れる。「いいぞ!緑川!」という鬼道の声がフィールドによく響いた。

ああ、楽しい。久しぶりに感じる風は心地よく、ボールはまるで足に吸い付くように馴染んでいる。以前の己よりも遥かに成長していることを確信した私は、その喜びを胸に、勢いよくシュートを蹴りあげた。
遠くで久遠監督が、あの鋭い眼光でこちらをじっと見つめているけれど、それにもう動じることはない。もちろん、まだ代表落ちしたくないという恐怖心はあるけれど、それ以上に今は自分を信じて、思いっきりプレーしたかったから。


「良いシュートだ!ユウナ!」

「ありがとう!次は必ず決めてみせるよ!」


残念ながら、私のシュートは円堂によって止められてしまったけれど、不思議と今までみたいに胸が苦しくなることはなかった。大きく手を振る円堂に、ニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべる。そうやって心から楽しんでサッカーをする私を見たヒロトは、安堵の息をもらしていた。



新たな気持ちを胸に



今日は2チームに分かれて実戦形式の練習試合を行う、と久遠監督から聞いていたのだけれど…。
グラウンドに集まった私達の前に突如姿を現したのは、私達のよく知るサッカープレイヤー達だった。

帝国学園のKOGと名高い源田に、木戸川清修の武方。他にも御影専農中や戦国伊賀島中、世宇子中などフットボールフロンティアに出場した名だたる選手達がそこに集結していた。
その中にはお日さま園の子供達も数人交ざっていて、目が合えば、彼らはニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる。

そして、そんな彼らを率いるはーー


「瞳子姉さん、どうして…。」


隣りにいたヒロトが困惑した顔で呟く。久しぶりに会った瞳子姉さんは相変わらず元気そうで、安心したのも束の間、彼女は自分が作ったチーム『ネオジャパン』と日本代表の座をかけた試合をしてほしいと久遠監督に頼みだした。
そんな突然、何を…。動揺する私達を余所に、久遠監督はそんな瞳子姉さんの頼みをすんなりと聞き届ける。こうして練習試合が一転、私達は瞳子監督率いる『ネオジャパン』と日本代表をかけた試合を行うことになってしまった。





「『グングニルV2』」

「『正義の鉄拳G3』……っうわああ!」


先制点を取ったのは、なんと『ネオジャパン』だった。どうやら、彼らは互いの必殺技を習得し、それらをさらに磨き上げてきたようだ。イナズマジャパンも負けじと攻めに行くが、『ネオジャパン』の固いディフェンスをなかなか破ることができない。
もうこれ以上点はやらない!と、前よりさらにパワーアップした円堂の『正義の鉄拳G4』で、敵のシュートをなんとか弾き飛ばすことができたが…。互角以上の力を見せてくる『ネオジャパン』を相手に、1点リードされた今の状況は非常にまずい。


「いけ!砂木沼!」

「っ、させるか…!」


私はパスを受け取った治兄さんの前に立ち塞がる。絶対にここは通さない!世界と戦うのは私達だ!確固たる意志を持って、彼のボールを奪いに行く。しかし、


「お前などに、今の私は止められぬ!」

「!?」


治兄さんは冷笑を浮かべてそう言うと、赤子の手を捻るように、いとも容易く私を抜き去っていった。なんて速さだ。圧倒的な力の差を見せつけられて、私は為す術もなく立ち尽くす。ああ、悔しいな。


「……でも、さすが治兄さんだ。」


思わず笑みが溢れる。治兄さんは昔から人一倍努力家で、誰よりも熱いハートを持った男だった。
日本代表選手に選ばれ、過酷な練習によってさらに強化した私たちを更に超えてくるなんて、きっと計り知れないほどの努力を積み重ねてきたんだろう。
“断じて行えば鬼神も之を避く”。日本代表選手になりたい、世界と戦いたいという強い思いが彼らをここまで成長させたのか。


「選手交代。緑川に代わって、風丸。」

「はい!……頼んだよ、風丸。」

「ああ、任せろ。」


選手交代を言い渡された私は、風丸とハイタッチをしてフィールドを後にする。悔しいけれど、今の私は彼らと互角に戦える力を持っていない。何か策があるらしい風丸に後を託し、私は仲間を全力で応援しようとベンチに腰掛けた。隣りで大きく舌打ちをした不動は苛立ちを隠そうとせず、睨むように試合を見つめていた。

私と交代した風丸が新必殺技『風神の舞』で、ついに『ネオジャパン』のディフェンスを破る。そして、彼からパスを受け取った豪炎寺の『爆熱ストーム』が敵のゴールネットを大きく揺らした。さすがだ。みんな、どんどんパワーアップしている。……私も、何か新しい技を習得できれば。

前半終了のホイッスルが鳴り響く。なんとか同点に追いついた私達は、この調子で逆転するぞ!と気合を入れて後半戦に挑むのだった。

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