「こ、こんな簡単に一点取られるなんて、」
「久遠監督の言うとおりだったッス…。」
「世界のレベルはすごい…!」
円堂の『正義の鉄拳』をいとも容易く打ち砕いた、ビッグウェイブスの必殺シュート『メガロドン』。先程の攻撃を完全に封じる必殺タクティクスといい、世界のレベルの高さを目の当たりにしたイナズマジャパンの選手達は信じられないといった様子でゴールを見つめていた。
「くっ、あの失点は練習をしていれば防げていたかもしれない。監督が練習禁止にしなければ…!」
「鬼道…。」
私の近くに立っていた鬼道は悔しげに拳を握り、監督へと視線を向ける。……確かに綱海と土方の連携がうまくいかなかったのはポジショニングの練習を怠ったせいもあるだろう。しかし、今は後悔しているときではないはずだ。
「起きてしまったことを悔いていても仕方がないよ。今はあの必殺タクティクスの攻略法を考えよう。」
「緑川。……ああ、そうだな。」
鬼道は少し眉尻を下げ、コクリと頷いた。よし、私も気持ちを切り替えていこう。
「みんな!試合は始まったばかりだ。まずは一点、追いつこうぜ!」グラウンドに円堂の声が響き渡る。イナズマジャパンの選手達は「おー!」と一斉に声を上げた。
大丈夫、世界のレベルの高さを知ってもなお、ここにいる誰一人として勝負を諦めている者はいない。まだまだ勝てるチャンスはある!
(……問題は、あの必殺タクティクスだな。)
試合再開後、豪炎寺や吹雪、ヒロトまでもが『ボックスロック・ディフェンス』によってボールを奪われてしまった。敵のシュートは全て円堂が止めてくれているため、あれ以降の失点はないが、こちら側は防戦一方。シュートチャンスは一度も得られていなかった。
一体どうしたら良いんだろう。ボールを追いかけながら『ボックスロック・ディフェンス』の攻略法を考える。
一人に対して四人で囲み、どの方向も二人がかりで行く手を阻む戦術。敵はここに人手を割いてる分、他は手薄になっている。ここさえ切り抜けられれば、私達にも希望はあるんだけど…。
彼らの連携プレーは高度なもので、すり抜けることはもちろん、外にいる仲間にパスを出すことも難しい。それはまるで箱の中に閉じ込められているようであった。
(……ん?箱の中に?)
「!!」
パッと稲妻のように閃く。脳裏に浮かんだのは、あの狭い室内での練習光景だった。個室の壁がビッグウェイブスの選手達と重なる。次々と伸びてくる足は風に靡く吹流しよりも、動きが単調で避けやすく見えた。
「……そうだ。私達はこの狭いスペースでの動き方を知っている…!」
ドリブルで上がっていく鬼道の前に、立ち塞がった4人組。彼らはまたもや『ボックスロック・ディフェンス』であっという間に鬼道の周りを囲んでしまった。まずい、このままではまたボールを奪われてしまう。焦った様子の鬼道に、私は声を張り上げた。
「鬼道!箱の中だ!狭い箱に閉じ込められている状況、それってこの2日間と同じなんじゃないか…!?」
「箱?一体なにを、……っ!」
訝しげな表情だった鬼道はハッとしたように辺りを見渡す。
そう、そこは狭い箱の中。そんな場所じゃできることは限られているけれど、私達はじっとなんてしていられなかった。練習がしたい。例え合宿所から出られなくとも、とにかく練習がしたかったんだ。
そして、あの狭い部屋での特訓は、決して無駄なものにはならなかった。
《鬼道、見事なコントロール!『ボックスロック・ディフェンス』の狭いスペースで軽やかにボールをキープしている!!》
どうやら鬼道も気づいたらしい。次々と伸びてくる足を軽快に避け、敵を翻弄している。特訓の成果は出ているようだ。先程までとは違い、鬼道のその余裕そうな表情に、ビッグウェイブスのキャプテンは焦った様子で「もっと激しく行け!」と仲間に指示を出した。しかし、それでも鬼道は動じない。
「何を手こずっている!」
ドンッ
「「うわっ、」」
「!ここだ」
敵同士の体がぶつかり合い、僅かに体勢が崩れる。その隙を見逃さず、鬼道は豪炎寺へとパスをまわした。観客席から歓声が上がる。ついに彼はあの『ボックスロック・ディフェンス』を破ったのだ。
続いて囲まれた豪炎寺も『ボックスロック・ディフェンス』を打ち破り、吹雪へとパスをまわすことに成功した。よし、この勢いのまま一点奪えれば!
期待が高まる中、吹雪は『ウルフレジェンド』を敵ゴールへと打ちこむ。しかし、それはビッグウェイブスのGKによって軽々と止められてしまった。その後、豪炎寺が『爆熱ストーム』を打つも結果は同じ。
そして、そのタイミングでビッグウェイブスは2人の選手を交代させてきた。どうやら『ボックスロック・ディフェンス』が通用しないとわかるやいなや、個人技でのディフェンスに切り替えたようだ。
交代した選手達の必殺技『グレイブストーン』や『カンガルーキック』によって、再び厳しい状態に陥る私達。互いに攻め手を欠き、膠着状態の試合の中、敵の厳しいタックルが鬼道を襲った。
久遠監督の采配
ホイッスルが鳴り響く。私達は1点リードされたまま、ハーフタイムを迎えることとなった。久遠監督は負傷した鬼道と交代で虎丸に入るよう指示を出す。そして、
「綱海、点を取れ。新たな必殺技でな。」
綱海がこっそり練習していたという、まだ未完成の必殺技を久遠監督は知っていた。
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