フットボールフロンティアインターナショナル、通称『FFI』は全世界を5つのエリアに分けて予選を行い、各エリアで優勝したチームだけが決勝トーナメントへ進めることになっている。つまり、我々イナズマジャパンは、まずアジア地区で一番にならなくてはいけないわけだ。

ーーそして、厳正なる抽選の結果、イナズマジャパンの一回戦の相手は、オーストラリア代表『ビッグウェイブス』に決まった。韓国と並び、優勝候補と言われているチームである。


(いきなり強豪国が相手か…。みんなの足を引っ張らないためにも、今まで以上に練習頑張らないと。)


そんなことを考えていた矢先、久遠監督は私達にとても残酷な命令を下した。オーストラリア戦までの2日間は練習禁止。合宿所から出ることも許さない、と。



一体、監督は何を考えているんだろうか。私は各自に用意された個室のベッドに寝転がると、真っ白な天井を眺めながら思案に耽った。

オーストラリア戦は、このチームでの初めての公式試合だ。アジア予選は負けたらその時点で敗退が決定してしまうわけだし、仲間との息を合わせるためにも、個人のレベルアップのためにも、この2日間は何より大事な練習期間のはず。
響木さんが推薦したほどの優れた監督ならば、そんなことくらいわかっているだろうに、どうして久遠監督は練習禁止命令なんて出したんだ。
なにか特別な理由でもあるんだろうか。それとも、音無さん達のいうとおり、久遠監督は『呪われた監督』なんだろうか……。

暫く考えていると、コンコンと部屋の外から扉をノックする音が聞こえた。続いて「ユウナ、いる?」というヒロトの声。体を起こしながら返事をすれば、部屋の扉は静かに開き、その隙間から顔を覗かせたヒロトとばっちり目があった。


「ヒロト、どうかしたの?」

「うん。円堂くん達とどうにか練習できないか考えてたんだけど、こっそりここから抜け出そうって話になってね。今から実行しようと思うんだけど、ユウナも一緒にどうかな?」

「どうかなって、そんなコンビニ行くみたいなノリで聞かれても…。久遠監督は合宿所から出るのも禁止だって言ってたし、バレたら大変じゃない?」

「でも、練習できないままオーストラリア戦を迎えるのは、ユウナだって嫌でしょ?」

「……そりゃ、そうだけど。」


ヒロトにそう言われ、私は監督にバレたときの恐怖と、練習をしたい気持ちを天秤にかけた。うーん…。あまり監督の命に背くことはしたくないけれど、確かに試合前の2日間を部屋にこもって過ごすのは嫌だしなぁ…。
仕方ない、と私は諦めたように息を吐く。“虎穴に入らずんば虎子を得ず”というし、ここは腹を括るしかないようだ。私は「わかった。私も行く」とヒロトに伝え、掛けてあった長袖ジャージをTシャツの上に羽織った。



それから円堂達と合流し、この合宿所から脱出しようと試みた……のだが、私達は割とあっさり監督に見つかってしまった。やはり、考えなしの正面突破はまずかったか。

部屋へと戻る途中、ヒロト達が久遠監督はやっぱり呪われた監督なのではないかと話し合っていると、そこに偶然居合わせた不動が「うるせぇな」となぜか苛立った様子で口を開いた。


「たった二日練習ができねぇくらいで自信をなくしちまうんなら、代表を辞退するんだな。」

「くっ、」


鬼道が悔しげに顔を歪める。不動のその言葉は私の胸にも深く突き刺さった。……彼の言うとおりだ。こんなことで自信を失っているようでは、日本代表なんて名乗れない。みんな、あの厳しい代表選考で選ばられた実力ある選手達だ。例え2日くらい練習できなくても、自信を持って堂々と構えているべきなのかもしれない。

けど、


「はっきり言ってお前の全体能力値は代表選手の中で最下位だ。」



……それでも、私は練習しないと。みんなより劣っている私は、みんなよりも多くの練習時間が必要で、こんなところで油を売っているわけにはいかないんだ。どんな状況でも、今できることを精一杯やらなくちゃ…!

それから私はみんなと別れ、自室で練習をすることにした。さすがにパス回しやシュート練習はできないけれど、部屋の中でもできる練習はたくさんある。壁にボールを当て、天井に吊した吹流しを避け、狭い室内でボールを維持し続ける練習。筋トレ。その他諸々。
ご飯や入浴以外の時間は、そんな練習ばかりして過ごした。同じく円堂達も室内での練習を始めたようで、合宿所の至る部屋からボールを壁にぶつける音が聞こえていた。



ーーそして、


《いよいよこの日がやって参りました!第一回フットボールフロンティアインターナショナル、アジア地区予選開幕戦!果たして、アジア代表の栄誉を勝ち取るのはどのチームになるのか!?》


ついに、私達の世界への挑戦が始まった。イナズマジャパンの初戦の相手はオーストラリア代表ビッグウェイブス。
マネージャーさん達が調べた情報では、彼らは海で心と体を鍛えぬいたチームで、相手の攻撃を完全に封じてしまう未知の戦術を持っているらしい。一体どんなプレイをするんだろうか。

スターティングイレブンに入れた私は、とても緊張した面持ちでフィールドへと足を踏み入れた。




イナズマジャパンVSビッグウェイブス




試合開始のホイッスルが鳴り響いた。吹雪から鬼道へパスをまわし、彼らは前線へと上がっていく。すると、向かいからやって来たビッグウェイブスの4人が目配せした後に、鬼道の周りを取り囲んだ。

「!?なに、」周囲から次々と伸びてくる足を、鬼道は必死に避ける。抜き去ろうにも敵4人の連携は全く崩れず、パスコースも全て塞がれてしまう。まさか、これが……


《出たー!!ビッグウェイブスの『ボックスロック・ディフェンス』!一度囲まれてしまうと二度と抜け出せない必殺タクティクスだ!》

「マネージャーさん達が言ってた、攻撃を完全に封じる技とはこのことだったのか…!」


ゴクリ、と唾を飲み込む。なんて、強力な連携技なんだ。ついに敵のスライディングが決まり、弾かれたボールを綱海と土方がすぐさま拾いに行く。しかし、こちらの連携はうまくいかず、二人は正面衝突してしまった。どうやら、ポジショニングの練習を怠ったツケがここに回ってきたらしい。

そうして、ボールは敵側へとわたり、私達は彼らに絶好のシュートチャンスを与えてしまった。敵の必殺シュート『メガロドン』は、円堂の必殺技をも破り、ゴールへと鋭く突き刺さる。鳴り響くホイッスル。


私達は敵に先制点を許してしまった。



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